東海道中膝栗毛 [初篇]
- KumanoBonta
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喜多「ぷはっ、いい酒だ。ツマミも豪華だな。蒲鉾が高級の白板だ。安物の鮫とは違うぞ。それに生姜の酢漬けにクルマエビ。豪華だなー。おいとっさん、この紫蘇の実がいちばんうまいぞ。とっさんはこれだけ食っとけよ」弥次「やなこった。そういえばお吸い物がそろそろじゃないか?」
2012-12-17 19:36:18喜多「そういやそうだな」と襖の隙間から台所を覗く。喜多「お、いまちょうどお椀に入れてるぞ。あ、違った、神棚に供えてる。おし、準備できたみたいだ」二人は座り直して再び待つ。やがて仲居がお吸い物を持ってきた。仲居「お待たせしましたー。お銚子も替えましょうね」
2012-12-17 19:36:28仲居が出ていき、待ってましたと腕の蓋を取る。喜多「わーい赤味噌だ。これ赤味噌だよな、玉味噌じゃねえよな」玉味噌とはソラマメを使って作る保存用味噌のことだ。麹を使っていないので、普通の味噌ほど旨くない。弥次「うめえ!ホンモノだ!」
2012-12-17 19:36:44やがて仲居が銚子の替えを持ってきて、差しつ差されつさらに酒がまわる。もう親子としての振る舞いも怪しくなってきた。喜多「おねえさーん、ボクたちと一緒に飲みましょー♪」仲居「いえ、私は飲めませんので…」
2012-12-18 19:34:44喜多「そんなこと言わずにさあどうぞー♪ はいはい、ここに座って夫婦契りの盃をかわしましょうー」弥次「すみませんなあー息子は酔ってしまったみたいですわ。がはは」喜多「酔ってなんかないっスよ。とっさんこそ自分のことを棚にあげちゃってさ、ひゃひゃひゃ」
2012-12-18 19:34:57ドン引きの仲居が、受けた盃を飲みほし、弥次へ渡した。喜多「あーっ、なんでとっさんに盃を渡すんだようー、おねえさーん、夜になったらゆっくり遊ぼうねぇー」と仲居の肩を抱いた。仲居は目を点にして早々に部屋を逃げ出していく。
2012-12-18 19:35:15弥次「バカだなあ、あんなことしたらびっくりして逃げ出すに決まってるだろ」喜多「なんだよう、悪いのかー? あの子の目つきが俺を誘ってたんだぜ?」弥次「そんな目つきしてねーよ」喜多「くそー、親子の縁なんて切ろうよもうー」
2012-12-18 19:35:28さらにグダグダな二人の宴会は続いたが、もう仲居さんは付き合ってくれなかった。親子のフリなどしていたおかげで、何を言っても取りあってくれなかったのだ。
2012-12-18 19:35:44寝る時間になりそれぞれ布団に入るが、台所のほうから宿の女将の喋り声が聞こえてきて二人とも寝付けない。襖の隙間風がピューピューと音をたてて、冷たく吹き込んでくる。すっかり酔いがさめた弥次は布団で考えごとをしていた。
2012-12-19 19:21:15「親子なんてことにしてたから女の子に相手にされなかったんだよな。うまくいけば一人で寝ずに済んだのに。いや、でもそのおかげで女を買う金は節約できたわけだし…あ、浮かんだ。『一筋に 親子とおもう 女より ただふたすじの 銭もうけせり』 ぷぷっ、くだらん。寝よ」
2012-12-19 19:21:27耳が箱まくらに当たって痛く、あまり寝付けないうちに夜明けの鐘が鳴り始める。外からは馬のいななく声や長持人足の歌も聞こえてきた。「竹にはースズメがよくとまるー♪ とめて止まらぬ恋のーみぃちぃ~♪」その歌にモソモソと二人は起き出し、朝食を食べ、早々に宿を発った。
2012-12-19 19:21:37【二日目】戸塚を出発
弥次「俺ほとんど寝てねえ」喜多「俺も」弥次喜多「ふあぁぁ。。。」宿を出てすぐに、大名の荷物を運ぶ長持が引きもきらず通りかかった。喜多「長持のやつら、あんなに重そうな荷物をよく担ぐよな、あの尻を振るザマ面白いなあ」
2012-12-19 19:21:48弥次「あの連中が尻を振り回すのを見てたら、だんだん気分が塞ぎこんできた…」喜多「なんでだ?」弥次「いや、追い出したおふつのことが懐かしくてさ…」喜多「男の尻で思い出すのか!」弥次「しり…おふつー…」喜多「笑えるな」
2012-12-19 19:21:58しばらく行くと、向こうの方から変な動きをする坊主がやって来るのが見えた。弥次「やべ、ちょんがれ坊主だ」喜多「ちょんがれ? なんだそれ」弥次「知らないのか。ちょんがれ節とかいうデタラメな歌を歌いながら金をせびる物乞いだよ。絡まれるとうっとおしいぞ、ほら来た」
2012-12-20 19:38:37ちょんがれ坊主「ヒャーっ、どもども、ご繁盛の旦那がたー、どうぞ10円恵んでやってくださいな」弥次「来るなっそばに寄るなっ」坊主「トコトコトコ、よいとこな。そんなこと言わずにくださいな♪」喜多「来るなってば、金なんか持ってねえぞ」
2012-12-20 19:38:46坊主「そんなワケないでしょ~お? 旅をなさる人たちが、お金がないはずないでしょ~お?」弥次「あっちいけよー」坊主「どんだけケチな旦那でも、足一本では歩かれぬ♪ あソレ♪ それから田町の反魂丹♪ こりゃ幸手のシラミひも♪ 」
2012-12-20 19:38:53坊主「越中フンドシの着替えの分も♪ なくてはならぬ その代わり♪ 古くなったら手ぬぐいに♪ お使いなさるがお得用♪ あコリャコリャ」弥次「ああっもうやかましいわ! それ持ってけっ」耐えかねて小銭入れから10円放り出した。
2012-12-20 19:39:02坊主「うひょー、50円とはありがたい♪」弥次「しまった、40円釣りをよこせ」坊主「はははっ、バイナラ~」弥次「ちくしょう、うわあああん」喜多「うへえ、もう見えなくなった。ちょんがれ坊主ってタチが悪いんだなあ」
2012-12-20 19:39:09弥次「ああやって金を出すまでしつこくつきまとうんだよ。わけの分からん歌がウザいだろ」喜多「田町の反魂丹とか幸手のシラミひもとか越中ふんどしとか、まるで広告だな」弥次「逆に買いたくなくなるわっ」
2012-12-20 19:39:17【中ぼん1】反魂丹は現在でも広く知られる薬ですが、最も有名なのは越中池田屋のもの (うちにもいただきものがあった\(^o^)/) 江戸では弥次喜多に出た田町の堺屋が有名でした。 http://t.co/Zw8hPlY5
2012-12-20 19:39:37【中ぼん2】幸手のシラミ紐は調べても詳細がわからないのですが、江戸芝金杉通三丁目の鍋屋源兵衛の店で売り出したシラミよけのひものことです。布のひもに薬が塗ってあり、虱を寄せ付けないようにしていました。
2012-12-20 19:39:49【中ぼん3】越中ふんどしはよく聞く名前ですが、これは越中の薬の行商が景品としてつけた「簡単に装着できるふんどし」が始まりという説があります。六尺の長いものより手軽に締められるのが売りだったようです。ふんどしの締め方はこちら→ http://t.co/wyxsOayT
2012-12-20 19:40:03藤沢宿
江戸から十二里十八町 (49.1 km)
散々な目に遭って歩き続けると、やがて藤沢宿の入口にたどり着き、ちょっと怪しげな古い茶店で休憩を取ることにした。喜多「婆さん、団子を4串ください。冷たかったらあっためてもらえますか」婆さん「あいあい、いらっしゃい。じゃあちょっと焼き直してきますね」
2012-12-21 19:45:29