東海道中膝栗毛 二編 下

十返舎一九が1802年に発表した「東海道中膝栗毛」。ここでは「二編 下」を現代語に超意訳しご紹介いたします。意訳ではありますが、ストーリーはかなり原作を忠実に再現しました。 他の「道中膝栗毛」シリーズはこちらからお入りください→ http://togetter.com/id/KumanoBonta 【文中で使用されている表現は、時代背景や作者の意図を尊重しています。ご了承ください】
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現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

巡礼「そうしましたら、天竺にいらっしゃる雷様の社長さんが、夕立の季節だけでも出稼ぎで帰ってこれないかとおっしゃるので、夏の間だけここを離れていたのです。ところがある年の夏、上方へ出稼ぎに行った婿雷様は帰ってきませんでした」

2013-02-26 19:20:29
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

巡礼「そのときすでに娘の腹には子供がおりまして、戻ってこない婿雷様を心配しておったのですが、きっとまた落っこちて腰でも悪くして休んでるのだろうと前向きに待っていたのです。そうしましたら…」

2013-02-26 19:20:34
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

喜多「そしたら?」 巡礼「ある日、婿雷様の同僚の雷様がいらっしゃいました。なんと、婿雷様は熊野浦へ落ちて鯨に飲み込まれてしまったと言うのです。私も娘も泣いて悲しみ、この先どうしたらよいかと思い悩んでおりました」

2013-02-27 19:39:55
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

喜多「なんとお気の毒な…」 巡礼「せめて鬼子を産み、親雷の跡を継がせてやりたいと、それを楽しみに毎日氏神様へ願掛けに通いました。そうして生まれたのがこの子でございます。あれほど祈ったのに鬼子を産まず、こんなに満足な人間の子を産むとは…」

2013-02-27 19:40:03
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

巡礼「よくよくの因果だとあきらめ、罪滅ぼしにこの子が大きくなるのを待って巡礼に出ることにしました。はあぁ…話をするのさえ胸が潰れる想いです」 ついに巡礼は涙にくれてしまった。

2013-02-27 19:40:10
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

夜も更け、宿の婆さんが寝ゴザの準備を始める。 「さあみなさん、おやすみくだされ。ここは狭いので、私と巡礼の娘さんは二階へ上がってやすみましょう」 二階へ梯子をかけ、巡礼の娘を連れて上がる。

2013-02-27 19:40:16
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

六部は荷物の中から紙の蚊帳を出しかぶる。宿の主人も巡礼も、薄っぺらな布団を取り出し、囲炉裏の側に転がった。 喜多「トイレに行ってこよう」 弥次「俺も」 裏口へ出た。

2013-02-27 19:40:22
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

弥次「あの娘、夜中に口説こうと思ったのに二階に上がっちまった。ちぇ」 喜多「俺さ、さっきずっとあの子の手を握ったりコソコソ口説いてたの、お前知らんだろ」 弥次「ええっ、マジかよ!」 喜多「今夜あの子は俺のモノになったも同然だ。ふゎはははは」

2013-02-28 19:29:32
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

弥次「おまホントそーいうのは抜かりないな」 中に入り、裏口を閉めて床に就いた。 こんな木賃宿泊まりの侘しさも話のネタではあるが、風よけのムシロ屏風の後ろから破壁の風音が聞こえてくるのはいたたまれない。

2013-02-28 19:29:37
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

喜多が辺りを伺うと、みな旅の疲れからイビキの大合唱をしている。 喜多「よし今だ」 そっと起き上がり、真っ暗闇を手さぐりで梯子にたどり着く。二階にソロソロと上がってみると、二階の床は竹を編んだスノコになっていて、その上にゴザが敷いてあった。

2013-02-28 19:29:42
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

歩くとミシミシ音がするので四つん這いになって歩き、娘の布団に入り込む。 喜多「来たよ~ん」 娘の体を撫で回し起こそうとしたそのとき、 「だれだ!何をする!?」 娘だと思って触っていたのは婆さんの体だった。 喜多「うひゃあ!」

2013-02-28 19:29:48
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

喜多はうろたえ逃げ出したが、竹のスノコにひっかかりバタンとコケる。その拍子にスノコを踏み抜き、階下へ落ちてしまった。 みしっ、がらがら、ずどーん! 宿の主人が音に驚いて目を覚ました。 主人「何だ、どうした」 「何だか分からんが、みんな起きなされ」

2013-02-28 19:29:53
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

六部も巡礼もすごい音に目を覚ましていた。 六部「どえらい音がしたぞ。明かりをつけてくれ。真っ暗で何がなんだかわからない」 喜多八は二階から天井を踏み抜き、階下の大きな箱のような物の中に落ちていた。足にコロコロ何か引っかかる。小さな仏像だ。どうやら仏壇の中に落ちてしまったらしい。

2013-03-01 19:48:58
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

明かりを点けられる前に外へ出ようとしたが、宿の主人が早々に灯してやってきた。 主人「どうも仏様の中に落ちたようだな」 仏壇の扉を開くと、喜多八がコロンと転がり出てきた。 主人「うわあ、あんたは」 喜多「あー、すみません、身延様へはどう行けばよいでしょう」

2013-03-01 19:49:03
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

乞食が膝に草鞋をつけ、手に下駄を持って四つん這いで身延山の久遠寺へ行くときのセリフを真似ているらしい。久遠寺とは法華宗の本山である。 主人「馬鹿者!なぜこんな所に入っているのだ」 喜多「あ、えっと、トイレへ行こうとしたら間違えまして…」

2013-03-01 19:49:08
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

主人「トイレと仏壇を間違えただと?」 主人が仏壇を覗く。 主人「うわあ…あんた、天井からここにズドンと入ったね」 喜多「はい、猫に追われて落ちました」 主人「ネズミじゃあるまいし、猫に追われたとはどういうことだ。そもそも何で二階になんてあがったのかね」

2013-03-01 19:49:13
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

喜多「えっと、ネズミにフンドシを持って行かれたものですから、二階にでもあるんじゃないかと探しに行ったんです…」 もじもじと言い訳をしているうちに、婆が下りてきた。 「いやいや、そうじゃないよ。私ももう六十になるというのに、このお方、私の体を触りなすったんだ」

2013-03-04 19:04:24
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

主人「はぁ? 」 六部/巡礼「えっ」 主人「あんた気がおかしいのか? 私らですら、もう20年もそんなことはしてないというのに、よくこんなしわくちゃババアの布団なんかに入ったもんだ」 喜多「いやもうホントごめんなさい。おい弥次ぃ、寝たふりしてないで起きてくれよう」

2013-03-04 19:04:29
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

喜多に揺り起こされ、笑いを堪えながら弥次が起き、 弥次「どうも若いモンは、後先考えずに突っ走ってしまい申し訳ありません。どうか勘弁してやってください」 六部や巡礼もいろいろとフォローしてくれたおかげでなんとかその場は収まり、喜多は浴衣を一枚売って修繕費にあてがうことにした。

2013-03-04 19:04:34

【六日目】蒲原宿を出発

現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

夜が明け、早々に宿を出る弥次喜多弥次喜多、こりゃあ痛いな。小田原では風呂を壊して8000円だろ、で夕べは二階をぶち抜いて4000円相当だぜ。おまえもう少し頭を働かせろ」 喜多「いや全く面目ない。悔しいが一首できた」

2013-03-04 19:04:39
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

巡礼の むすめとおもい しのびしは さてこそ高野 六十の婆々 弥次「ははははっ。夕べの言い訳もおかしかったが、フンドシをネズミに持って行かれたとはうまくこじつけたもんだ。オレその話をネタに小咄を思いついたんだけど」 喜多「面白そうだ、聞かせろよ」

2013-03-04 19:04:44
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

弥次小咄「まずこうだ。巡礼や六部といっしょに木賃に泊まりました。夜中に喜多八が起きて、なんだかそわそわしています。みんなも目を覚まし、どうしたんだと聞くと『俺のフンドシがネズミに持って行かれたようだ。どうも二階へ持っていってしまったらしい』という。」

2013-03-05 19:49:42
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

弥次小咄「巡礼も六部も『そういえば自分のフンドシも見当たらない』と言う。こりゃみんなネズミに持って行かれたんじゃないかと二階へ連れだって上がってみると、隅のほうから三味線の音が聴こえてきた。」

2013-03-05 19:49:48
現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

弥次小咄「こいつは不思議だと、皆で上がり口から覗いてみると、ネズミ達が皆のフンドシを広げて見ている。一匹のネズミが『おいらが持ってきた六部のフンドシは、振ると三味線の音がするんだ。どうしてだろう』と口にくわえ、振って鳴らしている。」

2013-03-05 19:49:53
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