モーサイダー!~Motorcycle Diary~Episode of Spring III~

@mor_cy_darにて投稿している連作Twitter小説・モーサイダー!~Motorcycle Diary~Episode of Spring III~のまとめです。続きはこちらhttp://togetter.com/li/493158 テキスト版の一括ダウンロードはこちら(http://t.co/VfcQHoiOEw)からどうぞ
3
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「まあ、いい」  決心が口元にあった。亞璃須の言葉と志智の意思がどうであれ、ヘルメットを手にした彼は『やる気』だった。 #mor_cy_dar

2013-04-17 19:33:55
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「腹は決まったぜ。たとえあんたが逃げても、勝手に仕掛けるだけだ……いいな、三鳥栖」 「いや、ちょっと待ってくれないか、芦田さん。俺は━━」 「勝負は来週のこの時間だ!」 #mor_cy_dar

2013-04-17 19:34:21
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「それでいいな、ゴスロリお嬢ちゃん!」 「日原院亞璃須です。変な呼び方はやめてくださいまし」 「じゃあな、三鳥栖!」  ヘルメットの中から、芯の強い声が志智の鼓膜へ届く。 #mor_cy_dar

2013-04-17 19:34:57
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 天空の彼方までとどくような回転の上昇と共に、CBR250RRは川野駐車場から飛び出していった。  ォン、という残響が消え去ると、鳥の声と風が鳴らす木の葉のさえずりが戻ってくる。 #mor_cy_dar

2013-04-17 19:35:19
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「あのな……おい、亞璃須!!」 「なんですか、志智? まさか逃げるとでも?」 「逃げるとか逃げないとか、そういう話じゃないだろ!  お前なあ、俺の気持ちも考えないで勝手に決めたりすんな!」 #mor_cy_dar

2013-04-17 19:35:43
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「べつにいいじゃありませんか、あなたとわたくしの仲ですし」 「そういう問題じゃねえ!!」  身長190cm近い男が、子供のような身長の美少女にくってかかっている。それも強い怒りと共に。 #mor_cy_dar

2013-04-17 19:36:06
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 第三者が見ていたならば確実に止めるだろう光景。  しかし、少し離れたところで成り行きを見守っていたSS乗りたちも、四輪組も。  亞璃須の『特別な関係』宣言を聞いてしまっているからか、興味津々の視線しか向けていなかった。 #mor_cy_dar

2013-04-17 19:36:39
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

(ふむ。若いというのは、いいものですな……)  くすぐったいような、懐かしいような、そんな感情を抱きながら、亞璃須の執事である吉脇もまた木漏れ日ほどの温度で彼らを見守っていた。 #mor_cy_dar

2013-04-17 19:36:56
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

~~~~~~Motorcycle Diary~~~~~~ #mor_cy_dar

2013-04-17 19:37:04
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「くそっ……なんてこった……」 「一体どうしたってんだ、シー坊」  三鳥栖志智とその妹、千歳が二人で暮らしているアパートから歩いて五分。 #mor_cy_dar

2013-04-17 19:38:56
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 モーターサイクルなら一分もかからない場所にある、二輪販売店『ハング・オフ・モータース』の店主は困惑顔の志智を認めると、手にしていたスナップオンの工具をトレイの上に戻した。 #mor_cy_dar

2013-04-17 19:39:54
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「あ、いや、こっちのことなんだ。祇園田(ぎおんだ)おじさん、こんにちは」 「おう。なんだ、スパーダのピストンでも吹っ飛んだか?」 #mor_cy_dar

2013-04-17 19:40:11
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「そんなことになったら、ここまで乗ってこられないよ……これ、今月分の家賃。  バイト代が入ったから、さ」 「律儀なこったな……そんなもん、いいって言ってるだろーが」  志智が差し出した銀行の封筒には、この国でもっとも高額な紙幣が二枚はいっている。 #mor_cy_dar

2013-04-17 19:40:36
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 社会人なら大した額ではない。  だが、高校生の志智にとってそれがどんな意味を持つのか、店主の祇園田宗義(ぎおんだ むねよし)はよく理解していた。 #mor_cy_dar

2013-04-17 19:40:55
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「ほれ」 「なんだよ、返さないでくれよ」 「半分だけだ。生活の足しにしな」 「イヤだよ。俺はもう高三なんだぜ? 自分の力で生きていくさ」 #mor_cy_dar

2013-04-17 19:41:07
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「んなこと言ったってな……家賃の引き落としだって、俺の口座名義だぜ。  公共料金もそう、もろもろ支払いはみんなそうだったな……頼れるうちは、きっちり頼ってもらわなきゃ、後見人のつとめがいがないってもんだ」 #mor_cy_dar

2013-04-17 19:41:23
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「……それでも家賃くらいは払うよ。電気代とかも、そのうち必ず……」 「頑固な奴だなぁ、シー坊」  くっくっくっ、と肩を笑わせつつも、店主は愉快でたまらないといった様子だった。#mor_cy_dar

2013-04-17 19:42:29
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 彼はひらひらと福沢諭吉を揺らしながら、店の奥にあるレジを開けると、5000円札を取り出す。 #mor_cy_dar

2013-04-17 19:43:06
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「それじゃあ、こいつだけ返そう。それでいいな?」 「だけど━━」 「こいつはなあ、俺が千歳ちゃんに飯をおごりたいから渡すんだ。  けど、ここんところシーズン・インで店も忙しくてなあ……その時間がとれそーにねーや」 #mor_cy_dar

2013-04-17 19:43:41
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「というわけで志智。お前が俺のかわりにいってこい」 「……わかったよ」  少し乱暴な手付きで5000円を受け取る志智に、祇園田(ぎおんだ)はますますうれしそうな顔をした。 #mor_cy_dar

2013-04-17 19:44:04
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「そうやって、ぶすっとしてる時の顔は、お前のおやじさんにそっくりだぜ」 「そういう言われ方、あんまり嬉しくないんだよな……」 #mor_cy_dar

2013-04-17 19:44:34
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「ははッ、子供ってのはそんなもんかもな」  作業つなぎの上から腰をかきながら、祇園田は店の外へ出ると、志智のスパーダを押し始める。 #mor_cy_dar

2013-04-17 19:44:47
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「いや、今日は整備じゃないって」 「なにいってんだ、前に来たときから1500kmも走ってるじゃねーか。  オイル交換だ、オイル交換」 #mor_cy_dar

2013-04-17 19:45:10
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「1500kmくらいすぐだよ……前に言ってたじゃないか、今時のオイルは10000kmくらい平気で保つってさ」 「そりゃ、今時なら、な━━ほれ、支えてろ」 #mor_cy_dar

2013-04-17 19:45:27
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 志智がスパーダの車体を直立させている間に、祇園田(ぎおんだ)は慣れた手付きでレーシングスタンドをスイングアームに溶接されたフックへ引っかける。 #mor_cy_dar

2013-04-17 19:45:44