山本七平botまとめ/「神への被統治意識」と「実質的統治者に対する拒否感」の狭間で、自縄自縛に陥ったユダヤ人

山本七平著『存亡の条件――日本文化の伝統と変容――』/第二章 民族と滅亡/伝統的なるものを支える「外来的」なるもの/69頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①これはまた戦後の、最もアメリカ的な反米家にも通ずる間題なので、次にヨセフスの記すその部分を、引用してみよう。 「…彼らは危険を意とせず、精神力で苦痛に勝ち、名誉ある死ならば、不死にまさると考えている。」<『存亡の条件』

2013-04-01 00:27:47
山本七平bot @yamamoto7hei

②「ローマ人との戦いは、極限まで彼らの霊魂を試みた。 その時、拷間を受け…立法者の名を冒漬し…禁じられた食事をとるように強要されても、彼らはそのいずれをも犯さなかったし…却って苦痛の中で微笑みを浮かべ…喜んで生命を捨てた。 間もなく再びその生命を取り戻すもののように。」

2013-04-01 00:57:40
山本七平bot @yamamoto7hei

③「というのも、彼らは、身体は滅びるものであって、物質的な肉体は一時のものであるが、霊魂は不死であり永遠であるという教理を確信していたからである。 …ギリシア人と同様に、彼らは、生命というものは、大洋のかなたに保護されていると信じている…」

2013-04-01 01:27:54
山本七平bot @yamamoto7hei

④以下は省略するが、ヨセフスのこの記述が事実なら、彼らの思想は、伝統的なユダヤ人の思想から最も遠いものであろう。 上記およびそれにつづく記述は、同時代のギリシア的考え方そのままである。 というのは、ヘブル思想には元来「霊肉二元」といった考え方がないからである。

2013-04-01 01:57:40
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤もちろんヨセフスは、彼らの思想をローマ人に理解しうるように変形したことは否定できない。 とはいえ、他のファリサイ、サドカイも同じように変形されているはずだが、その方には、このようなギリシア思想と同類型のものといった説明は皆無である。

2013-04-01 02:27:46
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥この点、ヨセフスの記述が果たして正しいか否かについて、専門学者の間に議論があるが、少なくとも同時代の彼には、エッセネが外面は最も荒野的、内面は最もギリシア的と見えたことは否定できない。 これが最後に述べた、文化の受容が引き起こす最も奇妙な現象の一つなのである。

2013-04-01 02:57:41
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦そしてこの逆もある。 たとえば外面はマルクス=レーニン的でありながら、その内実はその国の最も伝統的・土着的な生き方をしている、 といった場合である。 以上のような状態に陥った民族は、どのような道をたどるのであろうか。

2013-04-01 03:27:50
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧伝統的なものが実は外来的であり、また実質的な統治者に対して被統治意識をもってはならないとされる。 それは罪であり瀆神である。 被統治意識の対象は神であり神聖不可侵である。 その神にのみ被統治意識をもつというなら、その神の定めたモーセの律法を一点一画も違わず順守すべきである。

2013-04-01 03:57:40
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨いわば「律法の完全な実施」である。 といっても、それは字義通りにはいかないから、その一句一句を、現実を規定しうる如く創造的に発展させた口伝の指示通りにすることである―― いうまでもないが、これは、現実に応じて空洞化していく「骨抜き」ではなく、その逆になる。

2013-04-01 04:27:49
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩エッセネ派のようにそれが秘密の立法者で行われたり、ファリサイ派のように″口伝″化で行われたりする。 これらすべてを規制すれば、想像外のことで、さまざまな危機を招来しても不思議でない。

2013-04-01 04:57:39
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪カリグラ帝の時、帝は、その像をエルサレムに建てることを命じた。 ユダヤ人は拒否した。 そしてそれを強行するなら、全員死ぬまで抵抗するといった。 それはモーセの律法に反し、かつローマヘの被統治意識の強制になるからである。

2013-04-01 05:27:48
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫この実施を命じられたシリア総督ペトロニウスは、板ばさみになって、どうにもできない。 幸い(?)カリグラ帝が暗殺されて沙汰やみになったから良いようなものの、史家は、もし暗殺がなければ、ユダヤ人の滅亡は、このときだったであろうという。

2013-04-01 05:57:40
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬だが、こういう問題が発生する前に、その国内がどのようになってしまうかを検討しよう。 というのは、カリグラは発狂直前だったからこのような無理を強行しようとしたわけで、通常ローマは、その統治国の内政、特に宗教的・文化的面には一切タッチしないからである。

2013-04-01 06:27:49
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭そしてヨセフスが、その減亡の「責任をいかなる外国人に求めるわけにはいかない」といったのは、その内政的な面、いわば、今まで述べて来たような状態のため、自分の国を、自分で「持ちも下げもできなくなった」状態だったからである。

2013-04-01 06:57:42