「アイヌのお話アニメ」解説

平成24年度 口承文芸視聴覚資料作成事業 「アイヌのお話アニメ オルシペ スウォプ」 http://www.frpac.or.jp/animation/ 北海道大学アイヌ・先住民研究センターの丹菊逸治氏による解説です。
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丹菊逸治 @itangiku

今回のアイヌ語アニメが成功しているとしたら、歌い手の方々のパフォーマンスもさることながら、アニメ制作スタジオと声優のみなさん、録音スタジオの力によります。札幌にはこんなにクリエイターが揃っているのよ!

2013-04-20 22:58:58
丹菊逸治 @itangiku

アイヌ口承文芸好きがアイヌの伝統的世界観を知っていたり、アイヌ語学習者がアイヌ語が出来たりってのはある意味当然なんだけど、アニメ制作スタジオや声優に短期間の勉強や練習でそれを期待できるってのはすごいことなのです。才能も努力も必要なわけで。

2013-04-20 23:05:30
丹菊逸治 @itangiku

今回のアイヌ語アニメ。私自身としては、文化考証協力という端っこの立場での参加ではあったけれども、アニメ制作の大変さというものが少し見られて勉強になりました。

2013-04-21 00:53:54
丹菊逸治 @itangiku

もちろん、お恥ずかしながら文化考証担当の一人として100パーセントの仕事ができたとは思えない。もちろん言い訳はたくさんあるんだけれど。ただ何より、少しでもいい作品になるように手助けができたとしたら、それで満足しておかなくてはならないんだろう。

2013-04-21 01:24:19
丹菊逸治 @itangiku

だから今回のアニメについて何か言うとしたら、「自分のことは棚に上げて」言うしかない。でも、制作者の方々の才能(とそれを支える努力)がちゃんと反映されているんだと、問題があるとしたら我々文化考証担当側の責任なんだということをはっきりさせておかないといけないと思う。

2013-04-21 01:34:25
丹菊逸治 @itangiku

今回のアイヌ語アニメにかんして「口承文芸の語りと絵を細部まで同期(描写を一致)させる」という方針は当初から決まっていた。アニメ制作側はそれにしたがって映像を制作したわけで、相当やりにくかったはず。紙芝居のように静止画ならまだしも、動画を今回のようにまとめたのはまさに神技。

2013-04-21 01:51:26
丹菊逸治 @itangiku

「口承文芸の語りに動画をつけたアニメ」は実際にはほとんど存在しない。「まんが日本昔話」などもアニメ用にテキストは修正してあるし、語りのタイミングは動画に合わせてある。つまり「語りに絵を合わせる」のはアニメの作り方としては逆なのだ。

2013-04-21 03:46:12
丹菊逸治 @itangiku

例えば「みんなのうた」は「歌に映像をつけたアニメ」だが、歌詞と映像は必ずしも完全には同期していない。それに歌は叙情的だから、叙事的なものに比べるとやりやすい。今回のアイヌ語アニメも子守唄→神謡→叙事詩の順に難易度が上がった。

2013-04-21 10:43:06
丹菊逸治 @itangiku

今回のアイヌ語アニメのように「語りに映像を同期させる」のも、あくまでいくつも考えられるやり方のうちのひとつにすぎない。「ポイヤウンペとルロアイカムイの戦いあらすじ」のように台詞仕立てにするのも手だ。結果は見ての通り。ただし脚本や声優が必要となる。

2013-04-21 16:02:35
丹菊逸治 @itangiku

アニメの「音と映像」は同じ内容を流すのではなく、補完的なもの。だから「叙事的な語り」に語りの内容を表す絵をつけるのは冗長で退屈を呼ぶ。だから本当は「口承文芸に映像は不要」。

2013-04-21 19:33:47
丹菊逸治 @itangiku

そういう意味ではアニメ用脚本はアニメをよく知っている人間にしか書けない。つまり、アイヌ文化研究者やアイヌ語研究者にアニメ用脚本は書けない。かといってアイヌ文化やアイヌ口承文芸にかんする知識がゼロでは「アイヌ口承文芸アニメ」の脚本は書けない。

2013-04-21 19:56:36
丹菊逸治 @itangiku

作家が書いた脚本に「この部分はこう修正してください」と研究者がチェックを入れる、というのは「アニメの面白さ」という観点からは効果的なやり方ではない。劇作上どうでもいい部分なぞないんだから、「面白くするための修正」以外は作品の面白さを低下させるに決まってる。

2013-04-21 20:02:33
丹菊逸治 @itangiku

「アイヌ口承文芸アニメ」の文化考証担当は、いわば「世界観設定」と各種ガジェットデザイン原案を一手に引き受ける。その「世界観設定」を制作者に説明し、共有してもらえなければ担当失格。「知識があるだけ」だと「作り出す」方向では何の役にも立たない。

2013-04-21 20:16:47
丹菊逸治 @itangiku

とはいえ、研究者にプロのクリエイターと同じ作業を要求するのは無理。とすれば「世界観設定」にあたる部分の共有のために、企画段階からずーっと時間をかけるしかない。つまり「アイヌ口承文芸アニメ」には通常のアニメよりずーっと意見調整の時間がかかるのがデフォ。短縮する方法はない。

2013-04-21 20:36:59
丹菊逸治 @itangiku

「クールジャパン」といえば、今回のアイヌ語アニメは「クールジャパン」なのか「クールアイヌ」なのか。日本のアニメはかなりしっかりした「日本のアニメの文法」を持っている。今回のアニメは基本的にそれに従って作られている。部分的にアイヌ口承文芸的演出もあるけど。

2013-04-21 22:33:20
丹菊逸治 @itangiku

たぶん「日本のアニメの文法」と、もっと普遍的な「物語の文法」とは別であって、前者は「アイヌ口承文芸」と相性の悪い演出を含んでいたりする。とはいっても、代替物を見つけるのは簡単ではない。

2013-04-21 23:03:57
丹菊逸治 @itangiku

たとえば今回のアイヌ語アニメで狼神が「この狼神さまが…」と名乗る。狼神の妹が登場すると、ポイヤウンペが「狼神の妹だな!」と言う。これなんかまさに「日本のアニメの文法」。たまたま今回はこれでも話の内容と合ってるからよかったようなものの。

2013-04-21 23:10:06
丹菊逸治 @itangiku

アイヌ語アニメ。ポイヤウンペの前に狼妹が登場する場面の演出はどうする。カムイは人間と同じ姿。狼神特有の服を着てるけど、予備知識のない視聴者には分かりにくい。アニメ的には1)自分で名乗る、2)相手が名指す、のどちらか。原作では1)だけど、アニメにすると軍記物みたいになっちゃう。

2013-04-22 03:09:12
丹菊逸治 @itangiku

アイヌ口承文芸の紋切型として、味方の女神の初登場場面では、しばらく間をおいて「私は何某の女神です云々」と自己紹介する。でもこれをアニメでやるとスピード感がなくなる。「あなたは何某の女神ですね」と直に確認するのは失礼だが、今回はポイヤウンペの性格を極端に表す演出として採用。

2013-04-22 03:17:07
丹菊逸治 @itangiku

アイヌ語アニメの冒頭で登場する狼神。ポイヤウンペに対し「この狼神さまが倒してくれる」と自分で名乗る。アイヌの伝統的世界観では自分の素性を明かすと不利になるから普通は名乗らない。でもそれだと視聴者には誰だか分からない。極端な自信家は名乗ったりするので、今回はその演出を採用。

2013-04-22 03:23:47
丹菊逸治 @itangiku

口承文芸はたんなる「物語」なんじゃなくて、ちゃんと演出がなされている。そしてその演出は他の芸術ジャンルとは異なる。アニメにするなら演出は変えなくちゃならない。では、どこまでが「残すべき物語」で、どこからが「変えてもいい口承文芸用の演出」なのか。

2013-04-22 03:31:19
丹菊逸治 @itangiku

「元の資料からどれだけ変更していいか分からないから、完全に口承文芸的演出のままアニメにする」という選択をすると、少なくともアニメとしての面白さは確保できないだろう。

2013-04-22 03:37:09
丹菊逸治 @itangiku

だから、アイヌ文化をテーマとする創作活動において、直接の制作者であれ、考証だけの担当者であれプロであるならば「なぜそのような演出なのか」を説明できなくてはならない。「私はこう感じました」は答ではない。「分かりません」「知りません」という回数分、立場が無くなっていく。

2013-04-22 17:27:44
丹菊逸治 @itangiku

(続き)もちろん「プロ」でなければそういう責任はない。言語や伝統文化の「取戻し」運動において主役となるアマチュアは、プロと立場も責任も異なる。結局のところ「あなたは何に対して責任を負うのか」という問題なわけで。

2013-04-22 17:32:35
丹菊逸治 @itangiku

アイヌの叙事詩(ユカラ)はこんなふうに歌われる。http://t.co/LUQ76syere 約30分あるうちのクライマックス8分弱。歌(語り)にアニメ映像がつけてあります(アイヌ文化財団制作)。

2013-04-23 01:20:24
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