モーサイダー!~Motorcycle Diary~Episode of Summer VI~

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IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「『ああいう』バイクに乗っていれば、荒れた道が走りたくなるものですもの。  でも、志智のスパーダですと本格的な林道は無理ですわね。  さいわい風張(かぜはり)……鋸山(のこぎりやま)……醍醐(だいご)も舗装林道ですけれど……走ってみます?」 #mor_cy_dar

2013-08-26 20:32:19
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「頼むよ。ちょっと興味がわいてきて、さ。  だけど、周遊以外の道なんて知らないから、案内してほしいんだ」 「ふっふっふ」  手を合わせて軽く頭を下げる志智。  亞璃須は航空母艦の甲板にも似た平滑な胸を張りながら、得意満面の顔でうなずいた。 #mor_cy_dar

2013-08-26 20:32:27
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「まあ、わたくしにお任せなさいな」 「……何か代わりに要求されそうで怖いんだが」 「別に。今回は特にありませんわ。  どうせ走り終わったあと、わたしくしを尊敬するようになっていますもの」 「そ、尊敬……か?」 #mor_cy_dar

2013-08-26 20:33:03
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「ええ、そうです」  にっこりと亞璃須が微笑むと、グラスの中で溶けた氷がカチリと音を鳴らした。  この店の冷房すこし弱くないかと思いつつ、三鳥栖志智(みとす しち)はなぜか噴き出た汗を拭う。 #mor_cy_dar

2013-08-26 20:33:31
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

~~~~~~Motorcycle Diary~~~~~~ #mor_cy_dar

2013-08-26 20:33:37
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 ━━週末の日曜日、早朝。 「ち……ちょ……ちょっと待てくれっ!  おーい、亞璃須! 少し待ってくれって……ああっ、くそお!」  自分よりペースの早いマシンが、先のコーナーから消える姿を見送るのはよくあることだが、ある種の人間にとってそれは屈辱的光景である。#mor_cy_dar

2013-08-26 20:34:15
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 すなわち、本能的にスピードへこだわりを持っている人種。  速いモーターサイクルがいれば、とりあえず追いかけてみる人種。  すなわち、三鳥栖志智のような人種だ。 #mor_cy_dar

2013-08-26 20:34:20
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「……お~い」 「よちよち歩きの赤ん坊を置いていったりはしませんわ」  がたがたと突き上げるような路面からの震動に顔をしかめながら、志智のスパーダがコーナーを二つほど抜けると、ドヤ顔の亞璃須がXR650Rのサイドスタンドを出して待っていた。 #mor_cy_dar

2013-08-26 20:34:30
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「それにしても……遅いですわねえ、志智?」 「くっ……ま、前が見えないんだから仕方ないだろ」  ヘルメットの中から歯ぎしりしつつ言い返しても、負け惜しみにしかならないことは志智自身がよく分かっている。 #mor_cy_dar

2013-08-26 20:34:39
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

(なんなんだよ、この道は……)  亞璃須が最初に選んだのは、高尾方面の陣馬街道からアクセスできる醍醐(だいご)林道だった。 #mor_cy_dar

2013-08-26 20:35:01
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 神奈川の相模湖方面へ抜ける和田峠にもほど近いこの林道は、簡単な車止めが設置されており、入り口の時点で大型トラックやクロスカントリー車、SUVなどは入れないようになっている。 #mor_cy_dar

2013-08-26 20:35:07
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「……確かに大きな車は来ないかもしれないけど、軽トラくらい走ってるかもしれないじゃないか。  そんなスピードでコーナーに突っ込んで、お前は怖くないのか?」 「志智は周遊に慣れすぎですわ。  地方のダートやガレ場なんて、こんなものじゃありませんもの」 #mor_cy_dar

2013-08-26 20:35:16
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「……まあ、周遊に慣れていることは否定しないけどさ」  志智にとって林道の何が恐ろしいかといえば、信じがたいほど荒れている舗装ではなくコーナーだった。 #mor_cy_dar

2013-08-26 20:35:33
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 いや、R自体は大したこともない。  しかし、大半のコーナーにミラーがないのである。それどころか、ガードレールすらない。車幅に至っては、1.5車線━━否、せいぜい1.3車線もあれば御の字というところだった。  つまるところ、対向車が見えないのである。 #mor_cy_dar

2013-08-26 20:35:48
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

(一体どうやってこんなところ走ればいいんだ……)  すれ違いに十分といえるスペースがないだけではなく、来るのか来ないのか、それすら直前までわからない。 #mor_cy_dar

2013-08-26 20:36:02
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 ゆえに、志智はコーナーの入り口でどうしてもブレーキを強く踏んでしまう。  車速は原付の法定速度にも満たないレベルであり、街中を走るママチャリにも抜かれてしまいそうだ。 #mor_cy_dar

2013-08-26 20:36:08
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「ミラーのないコーナーでは、まず左側をキープします。これはすれ違いの関係上、当然ですわね」 「ふんふん」 #mor_cy_dar

2013-08-26 20:36:24
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「それと曲がり方ですけれど、志智みたいなリーンインでは視界が悪くなるばかりですわ。  オンロードマシンでも、コーナー先の視界が悪いときは積極的にリーンアウトです。舗装林道くらいなら、小石を拾ってもタイヤはそうそうブレイクしませんからもっと倒して大丈夫ですわ」#mor_cy_dar

2013-08-26 20:36:54
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「そうは言うけどな~……こう勝手が違うとなかなか厳しいよ……」  志智にとって林道の恐怖は、コーナーの視界が悪いことだけではない。 #mor_cy_dar

2013-08-26 20:37:09
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 荒れに荒れた路面の中央、つまり四輪車のタイヤの間にあたる位置に鎮座し延々と続くのは、どこからこんなに生まれてくるのかという量の小石……砂利……さらには緑色の苔。 #mor_cy_dar

2013-08-26 20:37:28
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

(タイヤがかすっただけでズルズルだろ、こんなの……)  しかも日当たりが悪いのか、それらが往々にしてしっとりと濡れているのだから、どうしようもない。 #mor_cy_dar

2013-08-26 20:37:42
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「さあ、ここからはいつもの道です」 「はあはあ……やっとか」  ついつい力の入ってしまう上半身の筋肉がパンパンになる頃、醍醐林道は途切れ、ほどなくして志智は見慣れたあきる野の都道へ到達する。 #mor_cy_dar

2013-08-26 20:37:47
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 檜原街道へ向かう。  いつも左折する檜原村役場の交差点は、すでに大多磨周遊道路へむかうオンロードマシン達が列をなしていた。 #mor_cy_dar

2013-08-26 20:38:02
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

 そんな中を志智たちは右折し、払沢(ほっさわ)の滝へむかう観光客たちも尻目に直進しつづける。  寂れた集落を突き抜け、いよいよここが東京都なのかと疑わしいほどの光景が出現すると、ついに片側一車線を保っていた道は消え失せた。 #mor_cy_dar

2013-08-26 20:38:32
IngaDo type-RR @mor_cy_dar

「こ、ここから、また……林道か……」 「青い顔をしていますわね。ここが風張(かぜはり)林道。あなたが見たDR-Zの通った道ですわ」 「い、いや、頼んだのは俺だからな……くそう、スパーダにもお前のXRみたいなタイヤがあればいいのに」 #mor_cy_dar

2013-08-26 20:38:49