猫神博士の人間豹シリーズ(ツイッター小説)
人間豹は飢えていた。今日はひときわ冷える夜だ。路地裏にある「毒婦」という名の小さな酒場に入った。カウンターには妖艶な美女がいた。他に客はいない。「憶えててくれたのね」とママが言った。「時々思い出すのさ」と人間豹は答えた。「この店の酒の味をな」 #twnovel
2011-01-10 19:04:32人間豹は飢えていた。行きつけの酒場に行くと探偵からのメッセージが届いていた。「君は僕を本気で怒らせてしまったようだね。僕の優秀な助手の心を奪った罪は重いよ。覚悟してくれたまえ」読み終えた手紙を握りつぶしてゴミ箱に捨てた人間豹は、いつもの酒を注文した。 #twnovel
2011-01-09 00:39:54人間豹は飢えていた。お仕置きをされた少年探偵はその翌日もまた女装をして現れた。眼をうるませ頬を染めながら彼はこう言うのであった。「ご主人様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」半ばあきれつつ人間豹は「好きにしろ」と言い捨てて今宵の狩りへと出かけた。 #twnovel
2011-01-07 19:17:40人間豹は飢えていた。誰かに尾行されているような気がして振り返ると、女装した少年探偵だった。今夜はメイド服を着ている。「しつこいぞ少年!」人間豹は少年探偵を小脇にかかえると「お仕置きだ!」スカートを捲って彼の尻を叩いた。乾いた打擲音が夜の街に木霊する。 #twnovel
2011-01-06 18:15:25人間豹は飢えていた。今宵の獲物は舞踏会で出会ったガラスの靴を履いた淑女だった。だが時計が十二時を打ちはじめると走って逃げ出した。追いついて捕まえるとそれはみすぼらしい身なりの少女だった。「その方がいかしてるぜ」と人間豹は言った。「もう一曲踊ろう」 #twnovel
2011-01-03 18:42:00人間豹は飢えていた。今宵の獲物は初詣帰りの振袖娘だった。帯の結びを解いて端を持って思いっきり引っ張ると「あれ~っ!」悲鳴を上げて娘は独楽のように回転する。いつ見ても楽しい光景だ。ふと後ろを振り返ると、振袖姿の熟女と少年探偵が順番待ちをしていた。 #twnovel
2011-01-01 19:21:46人間豹は飢えていた。師走の街はどこもせわしなく、人々が駆け抜けてゆく。その流れに逆らうように、人間豹は闇へ闇へとゆっくりと歩いてゆく。その先に待つ光り輝く乙女を求めて……。「縁があったらまた逢おうぜ、諸君」冷たい風が路地を吹き抜けて行った。 #twnovel
2010-12-29 18:15:18人間豹は飢えていた。今宵はクリスマスイヴで街はまばゆく輝いていた。その光を避けるように歩いていると道端に男が倒れていた。髭面の痩せた男だった。「居場所がないんだ」男が言った。「じゃあ俺と呑もうぜ」いつもの酒場に誘った。「ありがとう、明日誕生日なんだ」 #twnovel
2010-12-24 18:18:00人間豹は飢えていた。誰かに尾行されているような気がして振り返ると、女装した少年探偵だった。今夜はセーラー服を着ている。「こういうのがお好みだと、先生がおっしゃってました」と言われると、否定出来ない人間豹であった。 #twnovel
2010-12-22 18:40:00人間豹は飢えていた。今宵の獲物はシャボン玉を吹く街娼だった。無数のシャボン玉がネオンサインを反射してキラキラと光る。女はストローを唇から離してつぶやくように童謡を歌った。「やめろ」と人間豹は言った。「たのむからその歌だけは歌わないでくれ」 #twnovel
2010-12-21 18:27:27人間豹は飢えていた。今宵の獲物はミニスカートのサンタクロース衣裳を着た美少女だった。「ひっかかったな人間豹!」少女が少年の声で言った。「彼は僕の助手だよ人間豹君」いつの間にか現れた探偵が言った。「うらやましいだろう?」思わず頷きそうになる人間豹だった。 #twnovel
2010-12-18 00:27:39人間豹は飢えていた。今宵の獲物は妙に背の高い女だった。「その手には乗らねえぞ」紙一重ですれ違いざまに人間豹は言った。「いやいや、これはほんの名刺がわりさ」女装した探偵がカラカラと笑った。妙な奴に目をつけられたものだと人間豹はため息をついた。 #twnovel
2010-12-16 18:36:13人間豹は飢えていた。街はクリスマスの電飾に輝いている。ひときわまばゆい電飾の陰から長身のサンタクロースが現れた。「会いたかったよ人間豹君」髭を取ったその顔は新聞で見憶えのある私立探偵だった。「どうやら僕たちは同類のようだね」言って探偵はニヤリと笑った。 #twnovel
2010-12-15 18:41:57人間豹は飢えていた。街はクリスマスの電飾に輝いている。まばゆいイルミネーションの陰から嗄れたクリスマスソングが聴こえてきた。南北戦争の生き残りのような身なりの老詩人がギターをつま弾きながら歌っているのだった。かつて「神様」と呼ばれた男だった。 #twnovel
2010-12-14 18:57:11人間豹は飢えていた。街はクリスマスの電飾に輝いている。その夜はサンタクロースの格好をした三人の女性に出会った。一人目は売れない芸人、二人目は美大生、三人目は熟女だった。いつもの店に呑みに行くと「きよしこの夜」が流れていた。シレーヌの歌声だった。 #twnovel
2010-12-13 18:59:28人間豹は飢えていた。街はクリスマスの電飾に輝いている。年々その輝きはまばゆくなるばかりだ。光の洪水の中を、闇を探して歩き回る。闇の領域は少なくなりつつある。だけど人間豹は知っている。光が強ければ強いほど、闇はより濃く深くなってゆくことを……。 #twnovel
2010-12-12 18:18:32人間豹は飢えていた。今宵の獲物は褐色の肌をした異国の美女だった。しなやかな身のこなしで攻撃をかわした女はこの世のものとは思えない発音で呪文をとなえた。その響きで空気が歪んだように感じた。危険を察して視線をそらした。女は闇に溶けるようにいなくなった。 #twnovel
2010-12-11 18:39:34人間豹は飢えていた。今宵の獲物はマッチ売りの少女だった。そのあまりのいたいけなさに同情してマッチを買ってやった。マッチを擦ると炎の中に美しく成長した少女の姿が浮かび上がった。いつまでも見ていたいと思った。炎が消えたあと、少女も財布も消えていた。 #twnovel
2010-12-10 18:23:21人間豹は飢えていた。その日はジョン・レノンの命日で、いたるところで「イマジン」や「ハッピー・クリスマス」などを耳にした。夜も更けて馴染みの酒場に行くと「いつもの曲」とリクエストした。やがてジョンの歌声が店内に流れた。「Nobody Loves You」と。 #twnovel
2010-12-08 18:01:45人間豹は飢えていた。帝都の夜にサイレンが木霊した。大きな捕物が行われているらしい。こういう夜は早く引き上げる限る。いつもの酒場に向かう途中、眼の前に黄金の仮面をつけた怪人が現れた。こんなド派手な奴とは関わりたくないと、人間豹は道を空けてやった。 #twnovel
2010-12-06 18:25:23人間豹は飢えていた。今宵の獲物はものすごく醜い女だった。それなのに反射的に身体が動いて抱きおさえていた。「あんた物好きね」「俺もそう思う」女が笑った。その口許に奇妙な皺が寄った。「そういうことか!」女の顔の皮をひっぺがすと、そこに絶世の美女がいた。 #twnovel
2010-12-06 00:00:10人間豹は飢えていた。今宵の獲物は場末のストリッパーだった。「ちょっと待ってね、化粧落とすから」化粧を落とした女の横顔は遠い記憶にある誰かに似ていた。「母さん…」「ん、なんか言った」正面を向いた女の顔はもう、別人に見えた。「いや、何でもない」 #twnovel
2010-12-04 19:05:23人間豹は飢えていた。いや、飢えてなんかいないさと言う者もいる。かつて「歌舞伎町のミック・ジャガー」と呼ばれた伝説のジゴロこそが人間豹の正体なのだ、と。「本当なのか?」狼男の問いに「そんな昔のことは忘れた」と人間豹は答えて深いため息をついた。 #twnovel
2010-12-03 18:29:39人間豹は飢えていた。今宵の獲物は姉妹と見まごう母と娘だった。「二人一緒に可愛がって」「望むところだ」二人がかりの超絶テクニックに翻弄されメロメロの骨抜きにされた人間豹は、財布が掏られているのに気がついたが黙ってされるがままに身を任せた。 #twnovel
2010-12-02 20:15:05人間豹は飢えていた。路地裏の廃墟の塀に巨大な壁画が描かれていた。帝都の摩天楼群が繁茂する植物に浸食され半ばジャングルと化している。鳥獣が跳梁跋扈する世界に君臨する人間豹の姿。あの美大生が描いたものに違いない。廃墟は翌日に解体され壁画もまた瓦礫と化した。 #twnovel
2010-12-01 18:18:36