モーサイダー!~Motorcycle Diary~Episode of Autumn VII~
- IngaSakimori
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それからしばらく━━ 11月も中旬を過ぎると、朝夕の冷え込みは厳しくなり、峠へ向かえば真冬の下界にも匹敵する気温がライダーを苦しめる。 #mor_cy_dar
2013-11-26 23:10:19ネットではどこの峠が今朝は凍結していたと━━あるいは、どの街道に塩カルが撒かれたと━━ 北の人々は、ガレージにしまいこんだ愛機のバッテリー端子を外し、用品店は今が最後のチャンスだと、ウインターウェアとグリップヒーターの販売に余念がない。 #mor_cy_dar
2013-11-26 23:10:27「……誰だよ、こんな時間に」 そんな日曜日の夜。 自宅でのんびりとしていた三鳥栖志智(みとす しち)が聞いたのは、無愛想な呼び出しベルの音だった。 #mor_cy_dar
2013-11-26 23:10:47「また新聞の勧誘かな」 「もう八時過ぎてるのに、変だね」 「俺が出るよ。勧誘だったら追い返してやる」 「あはは……あ、あんまりエキサイトしないでね、おにいちゃん」 拳を鳴らしながら玄関へ向かう志智を、エプロン姿の千歳が困ったような顔で見送る。 #mor_cy_dar
2013-11-26 23:11:00「はいはい。あのさぁ、勧誘なら━━」 「こんばんは、志智」 玄関のドアを開けた瞬間、志智の視界に飛び込んできたのは目の覚めるようなオッドアイと金色の髪の毛だった。 #mor_cy_dar
2013-11-26 23:11:16「………………」 「ち、ちょっと! なんで閉めるんですの! 開けなさ~い!!」 「……なあ、千歳」 「あれっ、おにいちゃんどうしたの? なにか外で騒いでるみたいだけど……」 #mor_cy_dar
2013-11-26 23:11:30「お前、最近……ウチの住所とか、誰かに聞かれたか?」 「ううん。別にそんなことないけど」 「そうか、分かった」 扉の向こうから響いてくるキックのような音は無視して、志智はコメカミを押さえた。 #mor_cy_dar
2013-11-26 23:11:51「志~~智~~!! 開けなさいったら~!」 「……勧誘なら間に合ってまーす……」 「チェーンの隙間だけ開けて、何言ってるんです!? 足突っ込みますわよ!?」 #mor_cy_dar
2013-11-26 23:12:26「ったく、いきなり来るからびっくりしたぞ……いったい何の用だ?」 ドアチェーンを外して、そっけない鉄製の扉を全開にすると、外の冷たい空気が一気に吹き込んでくる。 #mor_cy_dar
2013-11-26 23:12:35寒いな、と志智は感じたが、亞璃須(ありす)の方は暖かいとは思わなかった。 それは三鳥栖家にある暖房器具が、お世辞にも強力とは言えない、年代物の石油ファンヒーターのみである事と無関係ではない。 #mor_cy_dar
2013-11-26 23:12:48「いえ、ちょっとそこまで来たので、寄ってみただけですわ」 「聞きたいことが二つほどある。 ちょっとそこまで来た割に、よそ行きの格好なのはどうしてだ。あと、ウチの住所どこで聞いた」 #mor_cy_dar
2013-11-26 23:13:00「鈍いですわねえ、志智。 クラスメイトの住所生年月日なんて、担任の持っている資料をすこしのぞき見すればいいことですわ。 それに、『ちょっとそこまで』といっても、別に志智の家が目的でないとは、一言もいってません」 #mor_cy_dar
2013-11-26 23:13:10「要するに、最初からウチに来るつもりだったわけだな……まったく」 ダッフルコートにやたらとボリュームのある手袋とブーツをつけ、妙なデザインのリュックを背負った亞璃須を半眼でながめつつ、志智はため息をついた。 #mor_cy_dar
2013-11-26 23:13:18「志智、あなたには二つの選択肢があります。 わたくしを家に上げてもてなすか、少し外に出て用事に付き合ってくれるか」 「このまま追いかえす選択肢もあるはずだが」 #mor_cy_dar
2013-11-26 23:14:55「あらあら。 志智は優しい心を持っていますから、妹さんの前でそんな鬼畜の所行には及ばないと信じていますわ」 「……ずいぶん遠回しな脅迫だな」 #mor_cy_dar
2013-11-26 23:15:14「まあ……やらなきゃいけない事がたまってるわけでもないし、別にいいか。ちょっと待ってろ」 そう言いながら扉をしめた志智がふりむくと、柱の陰から千歳が様子をうかがっている。 #mor_cy_dar
2013-11-26 23:15:22「別に怪しい奴じゃなかったから、問題ないぞ」 「あ、うん。えっと亞璃須さん……だよね。 おにいちゃん、わたしがいたらお邪魔かな? すこし出ていよっか?」 「そんなわけないだろ。少し出てくるのは俺の方だ」 #mor_cy_dar
2013-11-26 23:15:34「えっ、亞璃須さんとわたしの二人っきり? あ、うう~……確かに亞璃須さんとはおにいちゃんのことで、そのうちしっかりお話しないとって思っていたけど、今日、急にっていうのは心の準備が……」 #mor_cy_dar
2013-11-26 23:15:53「お前まで何を言ってるんだ……」 神妙な表情で、しかしなぜか顔を赤らめながら声を震わせる千歳に、志智はぐったり肩を落とす。 #mor_cy_dar
2013-11-26 23:15:56「亞璃須とそこら辺を歩いてくるよ。 昼間洗濯してた俺のジャンパー、もう乾いてるか?」 「あっ、うん。あったかいところに掛けておいたから、たぶん大丈夫だと思う」 #mor_cy_dar
2013-11-26 23:16:14「じゃあ、すこし出てくる」 飾り気のないソリッドカラーのジャンパーを一枚着込むと、志智は玄関の扉を開ける。 渡り廊下には、仏頂面の亞璃須が立っていた。 #mor_cy_dar
2013-11-26 23:16:41「待たせたな」 「そうですわね。 玄関の中に入れておいてくれるくらいの、心遣いはほしかったところですわ」 「ウチの玄関は本当に狭いんだよ……立ってるだけでいっぱいいっぱいだぞ」 #mor_cy_dar
2013-11-26 23:16:53真面目に取り合う様子のない志智が階段をおりはじめると、亞璃須は不満げにうなりながらついてくる。 足が一歩前へ出るたび、安物のスニーカーはぺしぺしと情けない音を立て、亞璃須のブーツはコツコツと小気味のよいビートを刻む。 #mor_cy_dar
2013-11-26 23:17:26