入試・試験などにおける「人物論」の問題点−芦田宏直氏による批判
「人物本位入試」というのは、教育再生実行会議(安倍政権の私的諮問機関)の第四次提言(2013年10月31日)以後、ちまたで騒がれるようになりました。「知識偏重の1点刻み」(提言1頁、6頁、7頁、10頁)の選抜評価に向けられた言葉です。
2014-05-18 21:26:21「能力・意欲・適正や活動歴を多面的・総合的に評価・判定するものに」(7頁)、入学者選抜の在り方を「転換」しようというのが、この提言の趣旨です。
2014-05-18 21:26:44もっともこの提言の中には「人物本位」という言葉は、一言もありません。かろうじて「人物評価の重視に向けた見直し」(8頁)が、平成14年以降の公務員採用において「図られてきており、引き続き能力・適正等の多面的・総合的な評価による多様な人材の採用が行われることが期待される」とある...
2014-05-18 21:27:24ここで言う「能力・適正等の多面的・総合的な評価による多様な人材の採用」は、入試選抜に関わる文脈では、「能力・意欲・適正や活動歴を多面的・総合的に評価・判定するものに転換する」(7頁)という言い方になります。
2014-05-18 21:27:45そして、「能力・意欲・適正や活動歴を多面的・総合的に評価・判定するこれらの認識が、「知識偏重の1点刻みの選抜から脱却」する課題に繋がっています。
2014-05-18 21:28:37「意欲」という言葉は、9頁しかないこの提言の中に14回も出てきますから、人物本位は、「能力・意欲・適正や活動歴」重視としての「知識偏重」に対する反対語であったわけです。
2014-05-18 21:28:55しかし、成績評価に、「関心・意欲・態度」が2割前後入るようになったのは、中曽根臨教審答申を受けた90年代からのことです。「知識偏重の1点刻み」の評価を相対化する試みは、すでに、20年以上も前の「新学力観」(1989年改定の学習指導要領)のものです。
2014-05-18 21:29:17いわゆる「多様な」能力育成、「多様な」評価というものです。90年代の「多様な評価」「総合的な評価」というものは、「多様な」教育、「特徴(特色)ある」教育などという標語と共に台頭しました。
2014-05-18 21:30:10大学でも、「達成度評価」については「期末試験40%、小テスト20%、レポート20%、意欲・関心20%」とする、というように、シラバス末尾に記載のある、いわゆる「ポートフォリオ評価」というのがすでにかなり以前から流行っています。
2014-05-18 21:31:59とりあえず、私は、期末の知識試験評価に偏重せず、「関心・意欲・態度」を含めた「総合的」な能力の履修判定評価のことを「ポートフォリオ評価」と呼んでおくことにします。
2014-05-18 21:33:21たとえば、大学教育改革の優秀モデル校として、いつも取り上げられるK大学の例で言えば、今年度、建築学部「日本建築史」(2単位)の履修判定ポートフォリオは…(続く)
2014-05-18 21:34:06(承前)…「試験」30%、「小テスト」20%、「レポート」30%、「その他」20%(発言・表現・伝達する力10%、学習に取組む姿勢・意欲10%)となっています。
2014-05-18 21:34:33この大学の履修評価はほぼこういった傾向を有しているが、もちろんこの体制は、文科省の「多面的で」「総合的な」評価施策にしたがっている。優等生です。
2014-05-18 21:34:51こういった評価で言えば、従来の期末試験(ペーパー試験)において、50点しか取れなくても(100点取っても全体の30%の評価にしかならないため)、他の要素の評価が高ければ、合格する場合があることになります。
2014-05-18 21:35:16そもそも、紙の試験(知識試験)において満点を取る努力が「関心・意欲・態度」と別に存在すると考えることの方がはるかに不思議な、機械的な知識主義です。
2014-05-18 21:36:23「関心・意欲・態度」が好ましいと教員が判断しているにもかかわらず、知識が身についていないのであれば、それは生徒や学生の問題ではなく、教員の教育に問題があったと考えた方がはるかに自然です。
2014-05-18 21:37:01実際、この種のポートフォリオ評価は、教員の授業改善を阻害しています。40点しか取れない教育(授業)を行っておいて、「関心・意欲・態度」点、あるいは出席点で20点の“下駄を履かせている”からです。そうして大量落伍者の存在を見えないようにしている。
2014-05-18 21:37:38そういった意欲点評価をやっている大学で、昔のように紙試験(知識試験)100%の試験をやると、半分以上の学生が60点取れないというのが今の大学教育の現状です。
2014-05-18 21:38:05もちろん、ここで言う「教育力」とは、必ずしも「知識」養成としての教育力ではないのだとすれば、「関心・意欲・態度」養成としての「教育力」は上がっているのではないかという議論は充分ありうる話です。たぶん再生実行会議の見解はそうです(笑)。
2014-05-18 21:39:47