知識と狂気の申し子　-黎明の頁-

リエット @rsr28083

おはようございます。ただいまより、 yamotoさん作『＃不知火に落ち度はない』の二次創作 落ちぬい二次（第二弾）を始めさせて頂きます。 本家、落ちぬいとは一切関係の無いものとなっておりますので、それを了承の上、ご覧下さい。 ＃落ちぬい二次

リエット @rsr28083

彼女は瞳を輝かせた。 腰掛けた鉱石の椅子から上半身を乗り出し、目の前に広がり、起こる世界に。 彼女は冷たい血と肉を沸かせ、虚ろな心を躍らせた。 ほんの数時間前、突然現れた女に誘われるがままにここまで来たが、まさかこのような素晴らしい世界へ導いてくれるとは。 ＃落ちぬい二次

リエット @rsr28083

深い底からうなり出てきたような歓声に包まれた空間。今、彼女はその歓声と共にあった。 彼女の眼前に居る女。彼女をここまで誘い、彼女含めた他の者たちにかつてない熱と意義を与えた女。 女は、熱狂する同胞に向けて声を張り上げた。 ＃落ちぬい二次

リエット @rsr28083

「今より、皆様は深海棲艦として確かな意義を見出されました。人類を攻め、艦娘を殺し、舟魂を滅ぼしつくす。そうすれば、我々を深い底の闇に縛る因果は断ち切れ、明るき水上へと解き放たれるのです。さあ、意義を持って臨みましょう、呪縛を断つ戦いへ！」 ＃落ちぬい二次

リエット @rsr28083

ーーー数時間前、サーモン沖の岩礁地帯に乗り上げた一隻の廃艦の中、いつものように彼女はそこにいた。 居間として使っている部屋の壁に、写真を次々と貼っていた。 これで二十枚・・・粘着テープのロールを左手で弄びながら彼女はスクラップボードとなった部屋の壁を見る。 ＃落ちぬい二次

リエット @rsr28083

写真は全て、海上を疾駆する女性ーー艦娘の姿を映しているものばかりで、さらにその被写体の艦娘の大半は、左手の薬指に銀の指輪をはめていた。 「最近結婚している艦娘が増えてるのねぇ」 ＃落ちぬい二次

リエット @rsr28083

そうつぶやく彼女は、艦娘と人間の敵、深海棲艦に属する者で、白い肌に赤い瞳、レインコートと白黒のマフラーを身につけ、獣程度だが知能を備えた尾を持っている。彼女は深海棲艦がこの世に出現した時から先陣を切って人類と戦い数々の海を奪った実績を持つ古参の猛者だ。 ＃落ちぬい二次

リエット @rsr28083

しかし今はこの廃艦のなかで、集めた本を読んだり、拾ったラジオを聴いたり、部下の潜水艦を四方八方と派遣し、艦娘と人間の情報を持って来させたりと、隠居のような生活を送っていた。 今は、カメラを持たせた潜水艦が撮って来た写真を部屋の壁一面に貼っている。 ＃落ちぬい二次

リエット @rsr28083

海を行く艦娘・・・自分をこの廃艦に引き篭もらせる原因となった存在。人類の希望となり、我々が奪った海を取り戻すため、先に立ち、傷つき、しかし手向かうことを諦めない乙女たち。深海棲艦の原動力である負の感情ではなく渇望と好奇心で動く彼女は被写体の艦娘たちに熱い視線を送る ＃落ちぬい二次

リエット @rsr28083

特にその視線は被写体の多くの艦娘たちの左薬指にはめられた銀の指輪に注がれる。今、彼女は艦娘たちと彼女らを指揮する提督の結婚に大きな興味を抱いていた。人類と艦娘の婚姻。それは艦娘を科学的に強化する儀式でもあるらしい。 ＃落ちぬい二次

リエット @rsr28083

内容はラジオで聞いただけで、詳しくは分からない。 だが潜水艦たちの報告では、銀の指輪をはめた艦娘が海で猛威を振るっているのだというから、結婚による強化は間違いないだろう。 ＃落ちぬい二次

リエット @rsr28083

彼女は一番最初に潜水艦が持ってきた艦娘の写真に視線を移した。 長い銀髪に赤と白の衣装を身にまとった、傷だらけの艦娘。 砲撃や魚雷の一発でも受ければ死ぬだろう身でありながら、瞳は闘志でみなぎり、指輪をはめた左手で弓を握り締め攻勢にでようとしている。 ＃落ちぬい二次

リエット @rsr28083

何が彼女をここまで強くさせているのか、支えているのか、みなぎらせているのか。彼女はその姿に魅せられた。 あの日、自分に銃を撃ち、生まれてはじめて混乱させた海兵に近しいものがこの艦娘にもあるような気がした。 会いたい・・・彼女に会ってみたい・・・ ＃落ちぬい二次

リエット @rsr28083

「そろそろ、怒られるのを覚悟して、外に出てみようかな・・・」 そう一人ごちたところで、彼女は違和感を感じ取った。 場の空気がひどく重苦しいものに変わったのだ。それは彼女がかつて前線に居た頃、特異な姿と力を持った同胞の放つプレッシャーに似ていた。 ＃落ちぬい二次

リエット @rsr28083

「こんなところに来客？」 そうつぶやいた彼女の頭の中に、ある純白の女性の姿が思い浮かぶ。 部屋の窓から外を見た。岩礁の端に一つの人影が見えた。ここから確認した限り、思い浮かべていた人物とは違ったが、只者でないことを感じ取る。 彼女はすぐさま部屋を出た。 ＃落ちぬい二次

リエット @rsr28083

頭に乗せた怪物から艦載機を飛ばして空を制し、高い知能を持って下級の深海棲艦を操る。個体数も多く、人類及び艦娘にとって強く警戒するに足る存在である。 彼女も、戦いに参加してた頃よく目にしたし部下として抱えていたこともあるからそれほど珍しい存在ではない。 ＃落ちぬい二次

リエット @rsr28083

だが、彼女の前に居るヲ級は違った。 まず、瞳が明るい紫をしており、まとう妖気も紫色だった。 深海棲艦は瞳の色、まとう妖気は大抵赤・青・黄の三色でありそれ以外の色は無い。 しかし、このヲ級は紫という見た事も聞いた事も無い色をしていた。 ＃落ちぬい二次

リエット @rsr28083

そして、このヲ級から感じられるプレッシャーも並外れていた。 それは彼女が本能的に「こいつは強い」と確信が持てるほどに強い。 かつて左目に青い炎のような妖気を発するヲ級を部下にしていたことがあり、それも中々の強さの持ち主だったがこの紫はそれを軽く凌駕していた。 ＃落ちぬい二次

リエット @rsr28083

だが、何よりも彼女を驚かせたのが・・・ 「お初にお目にかかります。ご機嫌はよろしゅうございますか？」 喋ったのだ・・・ ＃落ちぬい二次

リエット @rsr28083

それも馴れたような社交辞令・・・ 言葉による会話が可能な深海棲艦には、彼女はそう会った事が無い。 一応、二人ほど喋れる相手は知っているがここまで流暢に、しかも兵卒のヲ級が喋るなど・・・ 彼女は驚愕した・・・ ＃落ちぬい二次

リエット @rsr28083

「突然の訪問で申し訳ございません。私の名はヨークタウンと申します。今日私がご挨拶に上がりましたのは、女王陛下の命でありまして、サウスダコタ様には至急居城へご足労願いたく・・・」 「ま、待って待って待って！！」 ＃落ちぬい二次

リエット @rsr28083

「まず質問させて、あなた誰？」 彼女の質問を聞いた紫ヲ級は微笑を浮かべて答えた。 「なるほど・・・情報どおり、面白い方だ・・・」 「何ですって？」 「あぁいえ、自己紹介ですね？私はヨークタウン。女王陛下より側仕えとなることを許されている者です」 ＃落ちぬい二次

リエット @rsr28083

右手を胸の前に持っていき、腰から上を折り曲げ、丁寧にお辞儀をする。 「ヨークタウン・・・なんでそんな名前を持ってるの？」 「この名は女王陛下より賜ったものです」 女王陛下、つまり自分たちの親玉か・・・自分にとっては命令か強烈な説教を飛ばすだけの苦手な存在だ。 ＃落ちぬい二次