アンエクスペクテッド・ゲスト #4
(あらすじ:タマ・リバーに浮かぶ監獄島スガモ重犯罪刑務所に、ヨロシ・バイオサイバネティカ社の輸送機が突如墜落。鉄橋が爆発炎上し、スガモ重犯罪刑務所は完全孤立状態となった。不運はそれだけではなかった。輸送機コンテナの中には恐るべき生体兵器ニンジャ「カンゼンタイ」が積まれていたのだ)
2015-12-01 22:35:19(登場人物: 【ヤマヒロ】:グレーターヤクザの囚人 【イシカワ】:ハッカーの囚人。ヤマヒロとともに行動 【タロ】:まもなく釈放予定の若い囚人。ヤマヒロとともに行動 【ジェイク】:ガイジン。囚人同士の喧嘩で重傷を負い医務室へ運ばれた 【セイブ】:囚人。カンゼンタイに捕食された。 )
2015-12-01 22:39:11(登場人物2: 【ノボセ老】:ネオサイタマ市警49課の長。墜落事故発生時、スガモに偶然居合わせる 【タフガイ】:49課のデッカー。ニンジャソウル憑依者 【デッドエンド】:49課の女デッカー。ニンジャソウル憑依者 【スポイラー(ナカジマ)】:49課のルーキー。ニンジャソウル憑依者)
2015-12-01 22:43:12(登場人物3: 【コーゾ】:ヨロシ・バイオサイバネティカ社の重役。輸送機の唯一の生き残り社員 【カブセ】:スガモ重犯罪刑務所で働く医者。違法物品の運び込みで小金を稼いでいたことがマッポに露見し、取り調べの最中に事故が発生 【キンテツ】:囚人。おそらくカンゼンタイに捕食された )
2015-12-01 22:46:22中央総合棟の医務室はすでに、大勢の負傷者でパックド・スシめいた状態になっていた。廊下にまで囚人があふれ出し、うめき声を上げている。「マズイですよね」「当直マッポが少ないのがバレたら暴動可能性ですね」列をなす囚人たちを見ながら、守衛マッポ2人は顔を見合わせ、複雑な表情を作った。 1
2015-12-01 22:53:50その時!「どくんだ!どきたまえ!道をあけないか!」囚人たちの行列の向こうで叫び声!「「ワッツ!?」」守衛マッポは血相を変える!誰かが列を割り込もうとしているのか!?列を守ることが美徳である日本人にあるまじき、暴動誘発可能性行為である!「「ちょっとやめないか!」」守衛が駆ける! 2
2015-12-01 22:58:37「どきたまえ!私が診る!私以外に、誰がやるというんだ!」「「あ、あなたは……!」」守衛マッポ2人は思いがけない人物と遭遇した。それはカブセ医師であった!「私は医者だ!」カブセの白衣は血まみれで、全身に大量の器具やシリンジや薬瓶をベルト固定していた。まるで動く診療所であった。 3
2015-12-01 23:05:59「カブセ=サン、なぜあなたがここに!?もう勤務時間は終わっているはずなのに、何故……!」この末端マッポたちは、まだカブセ医師の罪状を知らぬのだ。「カブセ=サン、あなた自身もケガをしているんじゃないですか!?」「それに危険です!まだ爆発や火災の危険性が…!」マッポたちが止める。 4
2015-12-01 23:10:52「応急手当てならばマッポでもできます。総合棟は危険なんです。(いつ暴動が起こってもおかしくは……!)」マッポの一人が声をひそめて言った。だがカブセの目は、有無をいわさぬ使命感でギラギラと輝いていた。「そんなことを言っている場合か!私は医者だ!そして目の前に患者がいるんだぞ!」 5
2015-12-01 23:15:23「うう……」ストレッチャーに乗せられた重サイバネガイジンがうめき声をあげた。意識不明の重体であった。「フウーム!見たまえ!極めて危険な状態にある!」「庶子……」「今すぐZBRを倍量注射しかない!その横の火傷患者には、シャカリキ成分を3倍量投与だ!」カブセは医療行為を開始した。 6
2015-12-01 23:20:48カブセ医師は血と汗にまみれながら、驚くべきペースで診断をこなし、マッポ救急隊員に指示を飛ばしていった。まるで、何らかの神聖なる使命に突き動かされているかのようであった。「スゴイ」「なんて献身的な人なんだ……」2人の守衛マッポは離れたところからカブセを見つめ、驚きの息を吐いた。 7
2015-12-01 23:29:27日頃、カブセは囚人だけでなく職員からもナメられていた。空気じみた無価値な存在であり、真の敗者とみなされていた。「俺は今まであの人を誤解していたかもしれない……」「医師のかがみだ……俺はなんだか涙が出てきた」「君たち!」カブセが振り返り、叫んだ。「「ハイ!」」「手伝いたまえ!」 8
2015-12-01 23:33:31「ハァーッ!ハァーッ!」カブセは息を切らし、囚人患者の波をかきわけながら、気難しい天才作曲家めいた表情と足取りで、医務室と廊下を行き来した。棚に肩がぶつかり、ZBRアドレナリンの小さな薬瓶が転がって割れた。だがこのケオスの中では、その程度のアクシデントなど誰も気にしなかった。 9
2015-12-01 23:42:34「ヤマヒロ=サン、どうしたんですか……?」「おう、何でもねえよ」凄まじい冷や汗であった。ヤマヒロとその仲間は、総合棟の図書室に一時集められ、他の囚人たちとともにパックド・スシめいて押し込められていた。 11
2015-12-01 23:51:00周りの囚人たちは退屈そうに雑談を始めている。まるで過ぎ去った台風をなごり惜しむかのように。だが、グレーターヤクザであるヤマヒロは、その静けさがむしろ恐ろしかった。「チクショウめ……」ヤマヒロは、この先に迫るただならぬ不穏アトモスフィアを感じ取り、止まらぬ冷や汗をまた拭った。 12
2015-12-01 23:53:44「……前に、脱獄プランを話したことがあったよな」ヤマヒロは自分の仲間たちにだけ聞こえるよう、声を潜めて言った。「ハイ」イシカワが返答した。彼もまた、ヤマヒロの焦燥感が伝染したように、額におびただしい汗を滲ませていた。「エッ」二人のやりとりを見て、タロは不安そうな顔を作った。 13
2015-12-01 23:59:01「何で今、脱獄を……?」タロが恐る恐る問うた。ヤマヒロはタバコを吸うように指3本を口元に当てながら言った。「万が一の場合に備えてさ…なあ、おい?」「本来なら10個のセキュリティ問題を突破する必要があるが」イシカワが言葉をつないだ。「今ならそれが2個。80%ディスカウント中」 14
2015-12-02 00:06:46「だが別な問題も浮上。橋が崩落している可能性。その場合は、アドミン棟屋上にある緊急用のヘリを使うしかない。早い者勝ちのバーゲンセール」イシカワは引きつった笑みを浮かべる。「そして何より、俺たちは囚人ステータス。ハッキングの必要性あり。どこかで武器調達のオプションも欲しいね」 15
2015-12-02 00:12:31「今ならマッポの注意が逸れてるが、難易度そのものが上がっちまったって事か…」ヤマヒロは細く息を吹いた。「で、肝心のハッキングは?いけそうなのか、イシカワ?」「率直に行こう」イシカワは埋められた生体LAN端子に手を当てながら言った。「LAN直結不可。タイプ速度が全く足りない」 16
2015-12-02 00:18:21「やっぱりそうか……チクショウめ」ヤマヒロは重い息を吐いた。また汗が滲んだ。ここに投獄される囚人は皆、当然、生体LAN端子を埋められている。たとえテンサイ級のタイプ速度を誇る強大なハッカー犯罪者がいても、物理肉体タイピングの枷にはめられれば、翼を奪われた天使の如く無様だ。 17
2015-12-02 00:24:27「サイモンジなら、あるいは」イシカワはいささか自嘲的に言った。「サイモンジ……」ヤマヒロや他の仲間達は、声を潜めて、その名を復唱した。囚人ならば皆、その名を一度は聞いた事がある。地下の懲罰独房には、伝説のハッカーが投獄されているという。神の指を持つ男、サイモンジ・ヤナギダ。 18
2015-12-02 00:30:31サイモンジ・ヤナギダ。年齢不詳。生体LAN端子を持たず、純粋なタイプ速度とUNIXコマンドテクだけでテンサイ級ハッカーとなった男。今から14年前の伝説的なオムラ・インダストリ社株仕手電脳戦、俗に言う”黒いスシ事件”では、ヤバイ級ハッカーのニューロンを物理タイプで焼いたという。19
2015-12-02 00:34:43「だが、サイモンジは生死すら定かじゃねえ……本当の伝説だ」ヤマヒロは言った。「地下に忍び込む事自体は、今なら簡単だろうが……」イシカワは地下懲罰房に入れられたある狂人の人造皮膚の顔を思い出し、怖気をふるって言った。「伝説にすがるなんてのは、本当に狂気の沙汰の最後の狂気の手段」20
2015-12-02 00:40:49