織田信長が仏教論争を裁いた？「安土宗論」資料集〜「雑記録」さんが現代語訳

雑記録 @zakkiroku

しかしながら、元の座席に戻り、奉行衆に対して申し上げた。「ご存知のように問答は勝利したにも関わらず、このように投げ捨てられました。上様にこの有様を仰って下さい」と。 奉行衆云「其方の思い通りにご命令されるだろう」 本堂の外側では経論を引き裂かれ踏み破られ、悪口怨嫉は言語を絶した。

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その後に奉行衆云「此処は余りにも人が多いので、部屋に入っていろ」と。本堂の西側にある三畳敷の部屋に強引に押し込められた。侍一人が中に入れられ、部屋前には誰それを十四五人、その他にお付きの者共が入った。 暫くしてから、小者の猿という者がやって来て言った。

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「上様がお命じになられた今日の問答で、若輩者共が奉行に命じられたために思いがけない事が起きてしまった。問答の事件について、上様はご存知ではない。しかしながら、浄土宗側が無礼を働いた事は明確なので、再度御成なされ、双方を立ち会わせた上で事の始末をお命じになられるであろう。安心せよ」

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そのように言われた時に、我等【この書は日淵が弟子に語った事を底玄が筆記したものである。そのため「我等」とあるのは日淵師の言葉である】も日珖も「確かに」と納得した。その返事に御使者は敬服した。仰せの通りにするので、全てを相応しく済ませられるように御取成をお頼みしたい旨を申し上げた。

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『信長記第十三』翻刻。 北条氏政が「御礼」として使者を遣わして「関東八州御分国に参被由也」、滝川一益は「奏者」「公儀御執奏」という立場。平山優『戦国大名と国衆』で解説する定義を踏まえると、後北条氏の従属時点で一益は佐久間信盛や武井夕庵とともに「取次」の立場になったという理解。 pic.twitter.com/OhimhPMvfS

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その後、普傳は町中あちこちを捜索の上で探し出され、三畳敷に押し込められた。塩屋傳内も此処へ来た。 午刻終わりから未刻の始めに差し掛かった頃、信長殿が御堂の縁側にお出でになった。南禅寺秀長老が向き合って立った。信長殿が仰られるには、

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「長老にとっては年寄の気苦労であったろう。今日の問答は聞かれたか」と。秀長老云「齢を重ねて耳が遠くなりました」と言った。信長殿は「そうかそうか」と仰られて、「早く帰られよ」と秀長老を帰らせた。 我等が思うに、秀長老が申し上げた事は全く不当な事である。

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判者として呼び出された時に齢を重ねて耳が聞こえなくなったと申し上げるべきであったろう。そのようにせずに参上して、問答が終わってから「齢を重ねて耳が聞こえなくなった」とは納得出来ない言葉と思われる。 その後、浄土宗長老の貞安を呼び出した。東の部屋に入っていたが、暫くして参上した。

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先ずは信長殿が御言葉を発せられた。「今日の問答は大変目覚ましい働きであった。以前よりあちこちで実施された問答に関する様々な裁定を聞いたが、今度のような目覚ましい働きは知らない。これ程までの結果は、天下・日本国においても名を馳せるであろう」と仰った。

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左右に立ち並んだ側近たちが言う、「反論は御座いますまい」と。 浄土宗僧衆には「早く帰られよ」と言って帰された。そうであるから、先程の御使者が「双方を立ち会わせた上で事の始末をお命じになられるであろう」と言った事は、普傳を捜し出すための手段であったのだと思われた。

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その他終始一貫してお立ち会いになられる中で、手段である事について仰る事は無かった。 その後に「傳内めを連れて来い」と仰ったので、我等と同じ所にいたが引き摺り出し、寺院の外側の西南隅に引き据えた。(信長殿が)仰るには、「あの傳内めの悪事によって、このような事態が生じてしまった」と。

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様々な事情を暫く仰った後、「そら連れて行け」と言って、本堂の正面に引き摺り下ろしてそのまま斬り殺した。 次に「京都の僧共と普傳を連れて来い」と仰った。小者たちがワラワラとやって来て、二人掛かりで我等の両手を掴み、御前から四、五間程隔てて日諦、日珖、日淵の三人を引き据えた。

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普傳は三人よりも三間程後ろに引き据えられた。その時に仰られるには、「その普傳を連れて来い」と。直ぐに引っ立てられ、御前から二間程隔てて引き据えられた。 (信長殿が)仰るには、「お前は去年までは何宗でもなかった。法華宗に所属したのは高い地位に成り上がろうとするためだと確かに聞いたぞ。

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一般的に法華宗というのは、人に物を与えてでも自分たちの宗派に所属させたがると聞く。そのため、お前を法華宗に所属させれば、あの宗派は世間への聞こえが良いであろうからと思い、お前は欲望によって法華宗徒になったのであろう」等といった様々な事を仰った。

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普傳が申し上げた。「十年以上前から法華経でなくては、真の仏教経典はないと見極めていましたが、様々な事情で遅れてしまい、この春から法華宗徒になったのです」と言った。しかし、信長殿が仰るには「いやいや法華経が良いものである事はお前が言わずとも私は知っている。

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よく見てみると年寄ではないか。生きていたとしてもそれ程長生きする事はあるまい、あれを連れて行け」と仰り、引っ立てて本堂の階段から下ろし、そのまま芝の上で首を刎ねた。 そうして、我等三人に向かって、「あの老僧【日諦】は」と仰った時、日珖が申し上げた。「妙覚寺の学頭である」と。

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又、日珖に向かい「お前は堺の油屋常祐の弟だな。間違いないよく似ている」と。又、「新発意の僧がいると聞いたが誰だ」と仰った。日淵は両手を掴まれながら、少し頷いた。 その時「まだ若年ではないか」と。顔から血を流している様子を見て、「あそこまでする必要は無かったろう」と仰った。

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「その手を離せ。いらぬ事である」と仰ると、三人の手を掴んでいた小者六人は退いた。 その次に、「お前たちがそのような事態になったのは、法華宗を褒める者が一人もいないためである。私が知らなくても、他人が褒めれば良い物であると思うし、悪し様に言うのであれば悪い物であると思うのだ。

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それでは何故悪し様に言われるのかと思うと、他人に関わろうとせずに自分たちの宗派だけを広めていれば、悪し様に言う者はいないにもかかわらず、他人の事に関わろうとするので悪し様に言われるのである。それでは何故関わろうとするのかと思うと、強欲のために他宗の事を非難するためである。

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こうなってしまった上は、ただ覚悟を決めるか、宗旨を替えるかのどちらにするのか返答せよ。ただ、その場で返答は出来まい。新発意を連れて行け、談合した上で述べよ」と仰ると、御前衆は「早々に退出せよ退出せよ」と言った。小者たちが三人を再び引っ立て、先ほどの部屋に押し込めた。

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【雑感】「すなはち衷心より神仏の崇拝を嫌ひ、日本人の多く信ずる卜占を少しも恐れざることであって、デウスは坊主、寺院及び偶像崇拝の鞭として彼を選び給うたやうである」(『イエズス会日本年報 上』P.206より) 上記のように信長を無神論者として捉える考え方は、多数の研究者から批判されている。

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信長の宗教観の特徴は、「他人に関わろうとせずに自分たちの宗派だけを広めていれば、悪し様に言う者はいないにもかかわらず、他人の事に関わろうとするので悪し様に言われるのである」という記述とも共通するが、宗教勢力が自身の軍事・政治活動に介入する場合に敵対するという方針を持つ事か。

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また、「私が知らなくても、他人が褒めれば良い物であると思うし、悪し様に言うのであれば悪い物であると思うのだ」という記述より、世間の評判から「良い宗教」「悪い宗教」を判断するような「『外聞』を気に掛ける信長」という最新研究が示す信長像を宗教観においても敷衍出来るのではと想像。

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百人程の番人衆が三人の間に座り、些かの談合も出来ないように配置された。信長殿は山にお帰りになった。 暫くして奉行衆三人の御使者だと言う者が来て、「先程(上様が)直接仰せになられた事は、各々方で決定した上で仰るのが良いであろう。ただ御返答をせよ」と言った。その時日珖が申し上げるには、

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「ここで私の御返事を申し上げましょう。(上様が)仰られている通りにお受けしましょう。こうなってしまったからには、宗旨を改める事も最早仕方がないと思っています。又、私自身の所存や覚悟など迷惑に思われる事でしょう。ただ何処かの山中に住んで、生存が分からないような有様になるように、