ストレイトロード:ルート140(44周目)
- Rista_Bakeya
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ホテルに戻ると荷物が来ていた。懲りない御曹司が送りつけた箱を藍はすぐ外に持ち出した。捨てる気だ。「中を確認しないのですか」「一応見るだけ見る?」開封に手間取る間に野良犬が集まってきた。中身が高級な肉と判明するや藍はそれを全力で遠くに投げた。「犬に噛まれるくらいならこうするでしょ」
2019-09-04 19:02:25押し寄せる人々に藍は援助の到来を予告した。当局の動きを待たせるはずが、彼らは魔女が直接手を貸すと思ったらしい。手を取り合って喜んでいる。「協力する気はないはずでは」「ぬか喜びでいいのよ」藍は目立たないように私の袖を引いた。「舞い上がってる間に帰りましょ」時間稼ぎはうまくいくのか。
2019-09-05 18:43:54風に乗って現れた魔女が怖い怪獣から人々を救う。そんな筋書きの絵本が仕上がっていた。少女の方は藍がモデルと分かるが、共に表紙を飾る美丈夫は誰なのか。「わたしと一緒に戦った人ね」正体は宿への帰路で判った。広場に立つ英雄の石像だ。「古い守り神なんだって」外見は美化し過ぎている気がする。
2019-09-06 18:50:05食欲をそそる匂いで仮眠から覚めた。藍が車から簡易コンロとフライパンを持ち出し、肉を焼いていた。「今度帰ったらパパとママにごちそうする約束だから、練習」殊勝な言葉と共に持ったのは酒の瓶。フランベを披露するつもりと気づいてその場では止めたが、半月後の本番で彼女は決行した。肉は焦げた。
2019-09-07 19:57:25「こんな簡単な罠にかかる獣がいるかね。どんなへぼの仕業だか」口の悪い猟師が枯れ葉に隠した罠をまたぐ。茂みに潜む藍にも聞こえたはずだが、思ったより冷静に堪えているようだ。風が騒ぎ出さない。「どうせ足跡も消せない素人の」悪態が途切れた。私が藍の指示で一晩かけて掘った落とし穴の近くだ。
2019-09-08 20:31:19昼に会った役場の職員に、酒場の近くで絡まれた。「お嬢様にやりたい放題されて、よく我慢できますな」親の愛情を後ろ楯とし、ほしいままに振る舞う子供、という印象なのだろう。「それほど我慢はしていませんよ」もちろん雇用主に対し好き勝手は言えないが、私は反対意見の他にも対抗手段を得ている。
2019-09-09 18:44:57140文字で描く練習、2180。ほしいまま。 漢字の場合、実は一文字で書くという。しかもいろんな字が変換候補に出てきて驚いた。 なお「欲しいまま」は不正解。
2019-09-09 18:44:57焼け跡で藍が見つけた怪物はほぼ骨だけの姿だった。異形の翼の構造がよく解る貴重な資料と研究員が息巻く。「ところであれはホイールだった」口の中から出てきた金属塊のことだ。何も動かしていないと憤る藍を宥めつつ見解を尋ねると、困った顔をされた。「タイヤを丸呑みしようとしていたことになる」
2019-09-10 18:41:28道幅一杯に広がり横並びに歩く子供達がいる。歩道なら珍しくもないが、車道まで使うと異様な光景だ。「何してるの?」「探し物」藍の問いに端の一人が答えた。「友達の宝物を先生が窓から捨てたんだ」事件はこの辺りで起きたという。一列に並んで同時に探すのは、私達のような後続車に踏ませない為か。
2019-09-11 18:37:14つむじ風がしばらく辺りを掃いて回ると、倒れた男達の周囲に飲食物のゴミが散らばった。羽目を外した宴会の跡にしか見えないはずと藍は言う。「ありのままを話しても信じてもらえないって怖いのよ」被害を嘘扱いされる羽目に陥る。脱するには風の魔女に危害を加えたと自白するしかない、というわけだ。
2019-09-12 18:48:28不意に強くなった風が藍の手からメモをさらった。「今だ、急げ」背後で誰かが声を漏らした。振り向いても人の姿はない。飛び去った紙切れを追う複数の足音に気づいてから、藍が一歩も動かない理由を察した。「あのメモは」「後で言う」疑似餌が空を舞う。本物と思い込んだ何者かがそのうち釣れるのか。
2019-09-13 19:13:51床で眠っていたらしい。窓の外は靄がかかり、夜が明けたことしか判らない。一つしかないベッドでは見知らぬ女が熟睡中。気づけば昨夜の記憶も靄の向こうだ。『この人を絶対外に出さないで』傍らの書き置きは雇い主の筆跡だが、本人の姿はない。探そうとした矢先、熱に浮かされた女が起きて暴れ出した。
2019-09-14 19:51:50『魔女が全て掃いていった』やっと入手した新聞を広げると、街の鎮火を伝える見出しが目に入った。次の紙面には巨大な箒の絵。風で怪物を吹き飛ばす藍を揶揄しているのは明らかだ。「ウェブは本人も見るけど紙ならバレないと思ったんでしょ」本人は意外に冷静だ。「充電断らなきゃ買わずに済んだのに」
2019-09-15 19:06:34店の裏口を訪ねると従業員が顔を出した。雨に濡れた無精髭の男は食材の有余を求める人に見えたのか。残飯が入った袋を無言で押しつけられ、呼び止める間もなく扉が施錠された。「情けない顔してるからよ」身分を捨てて十五有余年、惨めな扱いには慣れたつもりだった。何故か今日は藍の一言がこたえる。
2019-09-16 18:53:48