しーなまさんによる拙著『デザインから考える障害者福祉』のランニングコメンタリー

2つの修士号をもつ障害者福祉施設の支援員、しーなまさん(社会福祉士)による拙著『デザインから考える障害者福祉』のランニングコメンタリーです。読者に恵まれるとはまさにこのこと。 『デザインから考える障害者福祉』はラグーナ出版からお求めいただくのが一番早いようです。 (こちから直接お求めいただくか、お問合せフォームにてお問合せいたださい) http://lagunapublishing.co.jp/books/design/ 続きを読む
13
前へ 1 ・・ 3 4 6 次へ
しーなま @shiinama

第5章 家族との関係をデザインする

2020-04-24 06:34:38
しーなま @shiinama

先行研究から、①障害者の家族(特に母)には、障害者本人(子)の生活や健康の管理が期待されていることが示され、②「妥当な賃金はいくらか」がどのように決まるべきかについて議論がある、ということがわかる。

2020-04-24 06:43:44
しーなま @shiinama

だから、①障害者家族に期待されている障害者本人の生活・健康の管理に関する支援体制がどのようにデザインされているか、②障害者の労働条件などに関する合意形成と権利擁護の支援体制がどのようにデザインされているかについて、障害者雇用に取り組むI社とB社にインタビュー調査した。

2020-04-24 06:53:30
しーなま @shiinama

①に関しては、I社は「障害者だからって許されることはない」という考えで遅刻などは許さない指導的な姿勢。そうした障害者へのかかわりを家族にも求める。B社は個別対応的で、家族との連絡ノートを使ってる人も使ってない人もいる。障害者本人や家族に委ねている。

2020-04-24 07:00:49
しーなま @shiinama

これ、障害者福祉の支援者の私としては、I社のやり方に疑問を持ってしまうのだが、I社は障害者の所得を最大化する方向にデザインされていて、一方B社は最低賃金減額特例を利用するなど、障害者の最適な居場所づくりに対してデザインされている、と著者は説明する。障害者雇用数もI社の方が多い。

2020-04-24 07:06:23
しーなま @shiinama

②労働条件の合意形成や権利擁護に関しては、B社の最賃除外を中心に記述されている。まあ、法令通り。ただ、景気が悪くなったり、上司が変わっても障害者が解雇されないための工夫として、最賃除外でもフルタイム雇用する、という話はなるほどなあ、と感心する。

2020-04-24 07:09:55
しーなま @shiinama

「おお、踏み込んだな!」と感じたのは、家族の逆機能についての記述。「〇〇ちゃんにはこの仕事は難しいわね」などと「代弁する」家族が障害者雇用にとっての最大の障壁の一つ、という話。これはめっちゃわかる。

2020-04-24 07:12:45
しーなま @shiinama

と、その一方、脚注で、「ちなみに障壁としてよく挙げられるもう一つのものが、福祉事業所の支援員である。」とあって……。

2020-04-24 07:14:19
しーなま @shiinama

虐待の事例とかもあるけど、それ以上に著者が言いたいのは、家族は「パルコマン」である、ということ。パルコマンとは、その効能が決定不可能で、良きものであると同時に苦痛を与えるもの。

2020-04-24 07:21:23
しーなま @shiinama

家族が悪いとか良い、ということではなく、そのようなパルコマンになってしまう社会構造が現状ではあって、さしあたりそれを前提とすれば、「家族との関係においては、多方面に最適化されたデザインが重要になる」と。

2020-04-24 07:22:54
しーなま @shiinama

思ったのは、「〇〇ちゃんはこの仕事難しいわね」と言う家族が持つという障害者本人のことを「自分が一番よく知っている」という「特権的知識」は、支援者にもありそうだし、それゆえに支援者も障害者の可能性を狭めている場合があるだろうな、ということ(「〇〇だから、まだ一般就労には早い」とか)

2020-04-24 07:25:55
しーなま @shiinama

実際、就労移行や就労継続の支援者としては、その利用者の就労能力を一番知っているのは自分だと思うわけだけど、経験的に言って、「え、この人も就労するの!」とか、「作業所では〇〇だったのに、一般就労してからは全然違う」みたいなことはめっちゃあるあるなのである。

2020-04-24 07:28:44
しーなま @shiinama

だから、障害者を一般就労させないのは、「事業所が利用者が減ることで収入が減るのを嫌がっているからだ」とか、そう単純な話でもない(就労移行はどんどん就労してもらわないと減算くらうし)。

2020-04-24 07:30:48
しーなま @shiinama

ところで、家族(親)が障害者の一般就労の障壁だという話から、自立生活運動における「親(の愛を)を蹴っ飛ばす」ことの重要性が思い出された。それは親自身への憎しみというよりは、障害者の親が愛ゆえに障害者本人を殺してしまう、そんな役割を親に期待する社会を蹴っ飛ばす、という意義があった。

2020-04-24 20:16:09
しーなま @shiinama

その頃に比べれば、障害者と家族を取り巻く状況は大きく変わった。だが、今でも、障害者の家族は、普通の家族とは明らかに異なる期待を担わされている。障害者福祉の事業所でさえ、家族のことを「保護者」と呼ぶところがいまだに少なくない。障害者家族をパルコマンにしてしまう社会構造はやはりある。

2020-04-24 20:20:38
しーなま @shiinama

そのような文脈において見ると、家族と障害者の関係を、多方面に最適化=デザインする、というやり方は、「親を蹴っ飛ばす」ことが難しい現状の社会があり、そんな社会を蹴っ飛ばして変革することが一足飛びにはできない生活者としての障害者が、実際的にどうやって生きているかを示している。

2020-04-24 20:28:36
しーなま @shiinama

パルコマンとしての親を簡単には蹴っ飛ばせないなかで何ができるか、という問いに対して、多方面に最適化するしかない、としたら……(もちろん著者はそうは言わないが)。多方面の最適化=デザインは、現状を前提とするがゆえに社会を変えないのではないか?最適化は社会は変えうるか?

2020-04-24 20:35:12
しーなま @shiinama

と、ちょっと疑問に思ったのだが、しかし実際、世の中が変わるときというのは、多くの場合、アレかコレかがオールオアナッシングでひっくり返る、という革命みたいな変革ではなく、最適化によるものなのではないか。

2020-04-24 20:37:20
しーなま @shiinama

この本における「最適化」の重要な点は、それが複数の要素を考慮している点だ。社会が変わるとは、最適化において考慮すべきとされる事柄が増えたり減ったり、重み付けが変わることではないか。その意味で言えば、どの点にどの程度考慮して最適化するか、というやり方や基準が重要かつ政治的だと思う。

2020-04-24 20:51:01
しーなま @shiinama

この本はあくまで記述に徹していて禁欲的だが、多様なデザイン(最適化)を記すことは世界が別様でありうることを示すし、それらがそれぞれ何をどの程度考慮してそのようなデザインとなっているかを見ることは、私たちがどのような世界を望むかを考えるヒントになるだろう。

2020-04-24 20:51:43
しーなま @shiinama

たとえば、障害者の工賃や給料を親がすべて使ってしまうケースがある。これは経済的虐待だが、親を悪者にして、「それは本人のお金だから本人が使うべきだ」と言うだけで権利擁護した気になっているわけにはいかない、と著者は述べる。

2020-04-24 21:00:21
しーなま @shiinama

経済的虐待問題の背景には、障害者の生活費を家族が負担し、家族が障害者の生活を支えることが期待されているという社会的な状況がある。家族が障害者の財産権の侵害を、正当な権利と思ってしまう背景の可能性を、著者は示唆している。

2020-04-24 21:03:03
しーなま @shiinama

そうしたなかで、では実際にはどのようにそれぞれのケースで障害者と家族の関係を調整したのか。どのような要素を考慮に入れて、どのような背景のもとで、どのようなデザインをおこなったのか。その記述を見ることで、自分が似たようなケースに向かい合う際に、視野を広く持って考えることができる。

2020-04-24 21:05:43
しーなま @shiinama

たとえば、障害者の子供の工賃を、親が家のローンを支払いにまわしている、というケースが紹介される。このとき、親はそうした息子を「誇り」におもって、そのようにお金を管理・使用してしまっている可能性が高い。その背景には、家に入れる金を多くの障害者は稼げない、という現状がある。

2020-04-24 21:08:56
しーなま @shiinama

それらの事情を無視して「親を蹴っ飛ばす」ことを障害者に勧めたりしても、障害者と親との関係改善ははかれないだろうし、社会もよくならない可能性が高い。悪者を作って対立関係を煽っても事態は解決しない。

2020-04-24 21:16:14
前へ 1 ・・ 3 4 6 次へ