ストレイトロード:ルート140(49周目)
- Rista_Bakeya
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今回の本編
大気の状態が変われば風が吹き、時には雲を生む。藍が持つ力は捉え方次第では便利な武器で、故に面倒な依頼も度々あるという。「意外に多いのは雨乞いの演出」神頼みの儀式が成功したように見せたいのは権威づけが目的か。「ご先祖様の文化を迷信の一言で潰されたくないって話で」権威との戦いだった。
2020-04-17 18:54:51140文字で描く練習、2401。雨乞い。 今回から再び、ゼファールの目線で描く藍ちゃんの物語に戻っています。
2020-04-17 18:54:51壁に貼り出された多数の絵は施設に集った子供達の作品だった。藍が指差した一枚にはベッドの上に伸びる恐ろしい影が描かれている。「悪い子は魔物に連れていかれるって言われたことない?」各地で聞かれる言い伝えの類を連想したのだろうか。「親には言われませんでした」「やっぱりあなた面白くない」
2020-04-18 19:42:30敷地に入った瞬間に事の重さを知った。町の小さな図書館に、到底収まらない数の書籍や資料が集まっている。私達の車に積んだ預かり物を収蔵する余地はあるのか。「本は直せる。でも失われたら助けられない」ウェブで蔵書の避難を呼びかけた司書が言う。「大丈夫、最初から受け皿として作った建物です」
2020-04-19 18:45:04「何が知りたいの?」「お前を消す方法」藍の肩を掴む少年の目は真剣だった。だが本人に聞くとは。「一人に好き勝手やられたせいで、他の『子供』がみんな苦しめられるんだ。わかれよ」風の魔女はこの世界に一つの事実を知らしめた。後からどんな傑物が現れようと、最初に打ち立てた記録は永久に残る。
2020-04-20 19:14:24また旅に出ると言う藍に対し、その母親は引き留めないばかりか笑顔になった。数日後、車の後部座席には隙間なく箱が積まれていた。「今度はドレスよ。売りに行くわけでもないのに」必要以上の食料を与え、無駄になったと娘に抗議されて以来、何が喜ばれるのかを探っている節がある。親心には違いない。
2020-04-21 19:50:57魔女を恐れる人々が私達に石を投げつけてきたが、地元の少年の手引きで逃げきれた。「これは貸しだからね」少年の仕草は要求を押し通そうとする大人の真似だろうか。「何か頼みたいことでもあるの」藍が問い返すと、遠慮がちに答えた。「もう一回、この町に来てよ」「わかった。今度は遊びに来るから」
2020-04-22 18:49:49路地裏を塞ぐ敵対者を突風が一掃した。「追跡しますか」「その前に」藍は片隅に放置された木箱を開けた。痩せた少女が縮こまっていた。ずっと箱の中に潜み、私達の会話ばかりか直前の脅しにも聞き耳を立てていたらしい。「この子の保護からでしょ」「やだ」暴れ出した。私達も怖い大人に数えられたか。
2020-04-23 18:51:12山の麓で雨に降られた私達は近くの洞穴に逃げ込んだ。雨雲の通過を待つ間に、藍が空間の奥で道具を拾ってきた。壊れたランタン。色褪せた珠。「人間が住んでたのかも」壁面に人の手で削った痕跡があった。誰かが恐らく苦行の一環として掘ったのか。「無駄ではなくなったわね」藍は響く声で遊んでいる。
2020-04-24 19:47:56大きな街に滞在中、藍の実家からある菓子を送ってほしいと連絡が来た。藍は何も聞かずに店を探し、問屋に言うような数を発注した。「お目当ては懸賞でしょ」細い指が箱の側面を叩いた。特等は奇妙な造形のぬいぐるみ、非売品らしい。「自分でも集めてると思うけど」本当に欲しい時は娘にも頼るらしい。
2020-04-25 19:28:48私達の頭上を飛ぶ怪物は様々な呼び名を持つが、学者達による呼称の統一は難航しているという。「最初に捕まえた人が決めればいいのに」藍は自らの提案が却下されたことを根に持っているらしい。「皆が最初になりたがって揉めているのです」名前は重要だ。呼び方次第で幾らでも先入観や誤解が生まれる。
2020-04-26 20:11:13号砲が遠くに聞こえた後、熱気の渦はすぐ視界に現れた。長距離走者の一団が熾烈な先頭争いを繰り広げる。交通整理で足止めされた私達の車を横目に駆け抜ける。「後ろにいた人が、昔の王者だっけ」藍がホテルで読んだ雑誌をなぞって言う。紙面には再起をかけてとあったが、本人の目は遥か先を見ていた。
2020-04-27 18:55:38次に通過する町には新しい観光名所が出来たという。真っ赤な花の絨毯が広がる庭園の画像は魅力的だが、藍は迂回を厳命した。「うっかり近づいたら絶対捕まえに来るから」深紅の女が私財を投じて造らせた施設らしい。荒んだ世界に癒しを、保護した人々には働く場所を。心地良い言葉も警戒の理由だろう。
2020-04-28 18:59:42