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トウガラシはなぜ辛いのか

なぜヒトだけが,トウガラシの危険な辛さに魅了されるのか。 日経サイエンス編集部の出村記者が巻頭特集の「辛い!の科学」にまつわるエピソードをご紹介!
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17日目

出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

本日の #辛いの科学トウガラシで○○を取るお話。 写真のアンチョ(左)とチポトレ(右)はそれぞれポブラノやハラペーニョというトウガラシを乾燥させた食品です。 日本だとトウガラシは料理に辛みを加えるイメージがありますが,メキシコ料理では乾燥トウガラシがもっと幅広い役目を果たします。 pic.twitter.com/vjQLFx9ulI

2022-04-12 12:39:22
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出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

なんといっても,乾燥トウガラシは出汁を取るのに使われるのです。お湯で戻し,酢や塩,ニンニクなどを加えてミキサーにかけるとソースになります。 特にアンチョは,そのまま食べてもドライフルーツのような風味がするとのこと。

2022-04-12 12:40:05
出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

...というわけで,実際に食べてみました香りはプルーンに近く食べると昆布のような風味もしてなんとも不思議。それなりに辛いのでバクバク食べるわけにいかないですが,確かにこれは出汁が出そう。 意外な感じですが,トウガラシがトマトと同じナス科であることを考えれば納得がいくかも?

2022-04-12 12:50:15
出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

トマトは多くのうま味成分を含む野菜です。 ちなみに,日本のトウガラシでも出汁は出るのでしょうか。鷹の爪で味わいの基になる遊離アミノ酸を調べた君塚明光らの解析では,プロリンが最も多く,スレオニンやメチオニンなども多く検出されました。

2022-04-12 12:50:31
出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

これらは直接うま味になるわけではありませんが,研究チームはグルタミン酸などのうま味成分と併存するとうま味を増強する効果があるとしています。 辛みだけでなく,トウガラシはうま味を加えたり,強めたりする役割も持っているんですね。

2022-04-12 12:50:46

18日目

出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

#辛いの科学 再開します〜。今日は「トウガラシをさらに辛くする方法」。 トウガラシの栽培種を比較すると,このように品種によってかなり辛さに差があることがわかります。 ジョロキアは最大100万スコヴィル!七味に使われる国内品種,三鷹の10倍以上の辛さです。 pic.twitter.com/pHBDf5tALz

2022-04-14 22:16:12
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出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

トウガラシは野生種から栽培化が進んでいく際,主にその辛みをマイルドにする方向に育種が進んできました。 しかし一部の愛好家はこの流れに逆行し,もっと辛いトウガラシを作れないか試行錯誤を重ねています。 ただし,トウガラシの辛さを変えるのは簡単なことではありません。

2022-04-14 22:17:07
出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

トウガラシの辛さに関わる遺伝子は多岐にわたっており,辛いもの同士を掛け合わせれば必ず辛くなるとは限りません。 むしろ逆に,辛さの弱いもの同士を掛け合わせると突然辛いトウガラシができることもあります

2022-04-14 22:17:41
出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

辛さに関わる遺伝子が多い理由の1つとして,トウガラシの中で辛いカプサイシンがたまる部位は限定されていることが挙げられます。カプサイシンはトウガラシの果実の中でも,種の台座にあたる「胎座」という部位に多くたまります。ピーマンを料理する際に取り除くことが多い「わた」の部分にあたります

2022-04-14 22:19:09
出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

カプサイシンをどの細胞で作るかを厳密に制御する必要があるため,トウガラシのカプサイシン合成には数多くの遺伝子が関わっているのです。

2022-04-14 22:19:35
出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

ブートジョロキアが激しく辛い理由は,胎座だけでなく果肉にもカプサイシンを蓄えているためです。うかつに素手で触ると,それだけで痛みを覚えることもあるとか。見るからに辛そう...。(Photo: Naga Jolokia peppers, Public Domain) pic.twitter.com/fnno715Jzj

2022-04-14 22:31:24
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出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

近年は,トウガラシの辛さと,ある特定の遺伝子におけるトランスポゾンと呼ばれる挿入配列の部位が辛さの強弱と関係していることもわかってきました。カプサイシンの生合成に関わる遺伝子の仕組みがさらにわかると,もっと辛いトウガラシが自在にできるかも...?

2022-04-14 22:32:44
出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

しかし実用的には,絶対に辛い個体にあたらないで済むシシトウの方が欲しい。笑

2022-04-14 22:34:28

19日目

出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

今日の #辛いの科学トウガラシがいつ日本にやってきたのか?というお話。 これには3つの説があります。 1つは,1542年(天文11年),ポルトガル人が持ち込んだ説です。幕末に佐藤信淵が著した農学書『草木六部耕種法』に記述があります。 (国立国会図書館デジタルコレクションの画像に赤線加筆) pic.twitter.com/BAST2d036C

2022-04-16 18:09:05
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出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

しかし,他にも2つの説があります。貝原益軒の『大和本草』(1709年)には,1592〜1598年の豊臣秀吉の朝鮮出兵時に朝鮮半島からトウガラシが持ち帰られたとの記述が。 そして人見必大の『本朝食鑑』(1697年)には,100年前=慶長年間(1596〜1615年)の頃にポルトガル人が持ち込んだとあります。 pic.twitter.com/VYLULGlZPF

2022-04-16 18:10:45
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出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

これら3つの説が有力説ですが,どれが正しいかについては結論が出ていません。もしかしたら,どれも正しいのかも。 一度の伝来で日本全国に広まるとは考えにくく,トウガラシは何度も日本に持ち込まれ,そのたびにこれを初めて見る人々の印象に残ったのかもしれません。

2022-04-16 18:11:32
出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

いずれにせよ,概ね16世紀後半〜17世紀初頭に日本に伝来したと言えるでしょう。 コロンブスが中米でトウガラシの存在を知ったのが1492年ですから,百年ほどでトウガラシは地球の反対側へ到達したことになります。 1万年前からずっと中南米で食されていたことを考えるとこのスピードは速い気がします。

2022-04-16 18:15:06

20日目

出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

今日の #辛いの科学 は,食べなくてもヒリヒリするトウガラシの秘密について。 トウガラシの効いた料理を食べると舌がヒリヒリします。しかし,すり潰したトウガラシが目に入るともっと痛いです。写真は米海兵隊の訓練の様子。カプサイシンスプレーは護身用の武器になります。(Photo:Public Domain) pic.twitter.com/bteRdXih7l

2022-04-18 21:46:42
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出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

舌に備わる辛みセンサーTRPV1は皮膚の直下や眼球の周囲にも存在しており,カプサイシンに反応します。だから,トウガラシのスプレーで目が痛くなったり,肌がヒリヒリしたりするのです。からいものが目や肌に触れるとつらくなるわけで,どっちも「辛」の字を使うことに納得。

2022-04-18 21:51:33
出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

そもそもカプサイシンの作用で肌などがヒリヒリするのは,TRPV1が反応した結果,傷ができたと体が錯覚して「神経原性炎症」が発生するためです。体は傷ができた部位に各種の免疫細胞を送ろうとして,カプサイシンの付着した皮膚周辺で血流量を上げます。

2022-04-18 21:52:24
出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

さらに,カプサイシン付着部位で増えた炎症物質がTRPV1に作用し,通常なら43℃以上の熱に反応するTRPV1の温度閾値を引き下げます。その結果,血流量が増えたことに伴う皮膚のわずかな温度上昇にTRPV1が反応してしまい,ヒリヒリ感が持続するというわけです。

2022-04-18 21:54:44
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