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トウガラシはなぜ辛いのか

なぜヒトだけが,トウガラシの危険な辛さに魅了されるのか。 日経サイエンス編集部の出村記者が巻頭特集の「辛い!の科学」にまつわるエピソードをご紹介!
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出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

ちなみに夏に日焼けした状態でお風呂に入るとぬるいお湯でも痛く感じますが,これも日焼けの炎症でTRPV1の反応する温度閾値が下がっていることが関係していると考えられます。

2022-04-18 21:55:05
出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

とても意外なことに,カプサイシンは鎮痛剤としても用いられることがあります。これはTRPV1経由の刺激が伝わった後,感覚神経が長期にわたって反応しにくくなること(脱感作)を利用したもの。海外では,神経痛などに用いるカプサイシン入りの軟膏が売られている国もあります。

2022-04-18 21:55:41

21日目

出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

今日の #辛いの科学山椒を辛く感じるメカニズムのお話。 和食や中華料理でおなじみの山椒ですが,山椒を辛く感じる仕組みはトウガラシのそれとは異なります。トウガラシのカプサイシンは痛覚ですが,山椒は触覚に作用します。 pic.twitter.com/hvqMJYJeMu

2022-04-21 23:38:29
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出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

山椒の辛み成分はサンショオール。カプサイシンと同じく辛みセンサーのTRPV1にくっつきますが,TRPV1を活性化する強さはカプサイシンに比べると弱いです。 その代わり,サンショオールは触覚に関わる神経細胞上に存在するカリウムチャネルのKCNK3やKCNK18といったセンサーに作用します。

2022-04-21 23:50:06
出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

その結果,触覚に関わる感覚神経が活性化し,刺激が脳に伝わるのです。 同じスパイスとはいえ,山椒特有の辛さは「しびれる」と表現されることが多く,トウガラシの辛さとは別物です。作用するセンサーが違うのだとすれば,こうした辛さの違いも納得できます。

2022-04-22 00:04:59
出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

なお,KCNK3やKCNK18は一部の麻酔薬のターゲット分子であることが知られています。2008年のNature Neuroscience誌で,カリフォルニア大学サンフランシスコ校のバウティスタ(Diana M Bautista)らは「山椒のしびれ方は,KCNK3やKCNK18に麻酔薬が作用した時と似ている可能性がある」と指摘しています。

2022-04-22 00:06:11

22日目

出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

今日の #辛いの科学 は、辛いししとうと辛くないししとうを見分ける方法はあるのか?というお話。 そのヒントは、ししとうの「タネの数」にあるようです。 2015年4月に発行された専門誌「特産種苗」に、信州大学の松島憲一先生がししとうに関する面白い実験結果を記されています。 pic.twitter.com/Zcul3WTYcE

2022-04-23 21:44:00
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出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

それは、辛いししとうでは、種が少ない傾向があるというものです。 375本のししとうを観察した結果、辛くない321本では種の数は平均105個(最多233個・最少10個)だったのに対し、辛い54本では平均29.5個(最多78個、最少3個)でした。

2022-04-23 21:45:24
出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

種の少ないししとうが必ず辛いわけではないですが、辛いししとうはたいてい種が少ないようです。 これは一体何を意味するのか。 前述の記事中では、「単為結果」という現象との関連性が指摘されています。 単為結果とは、受粉に失敗して種ができなかったのに果実だけができてしまう現象のことです。

2022-04-23 21:47:27
出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

筆者らが実験的に単為結果させると、ししとうの果実は全て辛くなりました。 辛み成分のカプサイシンと種皮に含まれるリグニンの合成経路は途中まで共通しています。そのため、単為結果のししとうでは種皮のリグニンが合成されない分だけカプサイシン量が増えるのでは、と筆者らは推測してします。

2022-04-23 21:52:01
出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

ししとうの辛さと種の数の関係、自分でも調べてみました!使用したのは徳島県産のししとう15本。種を外した胎座の部分(カプサイシンが一番貯まる場所)をかじってみて、はっきりと辛みが感じられた1本と、かすかに辛く感じた7本、全く辛みのない7本に分けて数えます。結果はこの通りpic.twitter.com/PsDXdAVGGZ

2022-04-23 22:00:36
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出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

サンプル数が少ない上に辛いししとうが1本だけなので結論は導き出せませんが、辛いししとうほど種の数が少ない傾向は確かにありそうです。 調べていて気になったのは種の形の違い。種の数が少ないししとうと多いししとうでは、種の形や色もこのように違いました。 pic.twitter.com/MK6LIYO1Aw

2022-04-23 22:01:54
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出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

(白くて大ぶりの種は辛さの程度に関係なくどちらのししとうでも見られたので、辛さの有無とはまた別の要素が関わっているのかもしれませんが。)

2022-04-23 22:03:21
出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

というわけで、絶対辛いししとうに当たりたくない!という人は「食べる前に果実を縦に裂き、種の数が多いししとうだけを食べる」のがよさそう(?) まあでも、食べるまで辛いかどうかわからないドキドキ感も、ししとうの魅力の一つだったりして。

2022-04-23 22:05:52

最終日

出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

今日の #辛いの科学 は、辛い料理が得意/苦手な人に遺伝的な違いはあるのか?というお話です。 お酒の強い/弱いの個人差は遺伝的な体質の違いによって生まれることが知られています。辛さの感受性についてもこうした差があるのか、興味深い実験結果が出ています。 pic.twitter.com/64xQIw4vRq

2022-04-29 23:41:16
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出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

米オハイオ州立大学が2020年に、アメリカ人とインド人で辛さの感受性が異なるかを調べました。舌や唇にカプサイシンを塗り、痛みをどれだけ感じるか申告してもらう実験です。 しかし大方の予想に反し、両群の違いはありませんでした。 生まれつきの辛さの感受性に民族や集団間の違いはないようです。

2022-04-29 23:43:17
出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

しかし、同じ国や社会の中で暮らしていても辛さの好みは人それぞれ。 フィンランドのヘルシンキ大は2012年に、その原因が遺伝要因か環境要因なのかを調べるべく同国内の双子300人の協力を得て、辛さの感受性をテストしました。

2022-04-29 23:43:56
出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

もし辛さの感受性が生まれつきのものなら、一卵性双生児(遺伝的に非常に似ている)同士は同じはずです。しかし、実際には双子間で辛さの感受性が異なっていました。 実験結果からは、辛さの感受性の18〜58%が遺伝要因、残りが環境要因によるものだと結論づけられました。

2022-04-29 23:44:15
出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

(ちなみにこの実験、イチゴゼリーにカプサイシンを混ぜて味の好みを尋ねるというものでした。辛いイチゴゼリーを美味しいと答えた被験者がそれなりにいたということにもちょっとびっくり)

2022-04-29 23:46:21
出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

辛さの感受性の遺伝要因には、辛みを感じるセンサータンパク質TRPV1の構造な違いや、痛覚を伝える神経線維の性質など、様々な要素が関わっていると考えられます。辛いものを食べ慣れているかどうかという環境要因以前に、辛さの感じ方はひょっとすると個々人によって異なるのかもしれません。

2022-04-29 23:47:17
出村政彬 Masaaki Demura @DemuraMasaaki

辛さにまつわる科学は、2021年のノーベル生理学医学賞の受賞テーマとなりました。ノーベル財団の用意した解説文書に「How do we perceive the world?」という言葉があるのが印象的です。 nobelprize.org/prizes/medicin…

2022-04-29 23:48:54
リンク 日経サイエンス - 一般読者向けの月刊科学雑誌「日経サイエンス」のサイトです。 2021年ノーベル生理学・医学賞:温度受容体と触覚受容体の発見で米の2氏に - 日経サイエンス 2021年のノーベル生理学・医学賞は,温度受容体および触覚受容体を発見した功績で,米カリフォルニア大学サンフランシスコ校のジュリアス(David Julius)教授,米スクリプス研究所のパタプティアン(Ardem Pat … 続きを読む → 31 users 200
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