「トヨタの闇」備忘録と日本型雇用システムに関するディスカッション

トヨタの暗部を描いた作品。書かれている内容の大半は、著者の主張に偏りがあるため当を得ていないものの、トヨタの課題をいくつも指摘している点には価値がある。なぜトヨタには特有の課題があるのかについて、ぼくなりの視点で整理しています。
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【総評】

長野テル @naganoteru

「トヨタの闇」読了。http://t.co/bpVpDZQS B級ジャーナリズム目線と大企業に対する理解不十分からやや幼稚な書き方になっているものの、トヨタという会社を批判的に検証している点は評価できる。トヨタが8割は普通の日本企業、2割が特殊な企業であることがよく分かる。

2011-09-20 18:11:26
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【トヨタの企業カルチャーとその矛盾について】…トヨタの8割は普通の日本企業、2割が特殊な企業という点から

長野テル @naganoteru

終身雇用を前提に新卒をゼロから育て、定年退職後の年金まで含めてしっかり面倒を見ていくという仕組みは、戦後日本企業の典型。その中でロイヤリティーを培い、プライベートとオフィシャルの区別が曖昧なまま組合やQCや懇親などの活動に従事させることも一般的。これらは必ずしも悪いことではない。

2011-09-20 18:23:26
長野テル @naganoteru

ただ、このシステムには絶対的に「遊び」が必要。業務時間中に雑談やタバコや所用でのちょい抜けが認められるからこそ、サービス残業も受任可能になる。会社が従業員の家庭環境に配慮した人事異動をしたり、家族が病気のときには配慮をしたりするからこそ、休日出勤もできるようになる。

2011-09-20 18:34:17
長野テル @naganoteru

上司や同僚が家族的愛情をもって組織員を育て、マネージメントするからこそ、プライベートの時間である会社帰りの飲みの場で仕事の話に花が咲く。び」の部分があるからこそ、終身雇用を前提とした全人格、全生活的な会社従属が可能になる。それが、古典的な戦後日本企業の形。

2011-09-20 18:40:45
長野テル @naganoteru

ところが、90年代半ば以降の低成長の中で、売上増の難しくなった日本企業は、業績=利益改善のためにコストの削減、つまり「効率化」を推進した。1人当たりの業務負荷は増し、雑談の時間は減り、従業員は追い込まれるように仕事をすることを求められた。「遊び」の要素が減ったのである。

2011-09-20 18:47:57
長野テル @naganoteru

「遊び」が減れば、それに応じて「曖昧さも減らさなければならない。労働時間はきっちり管理・計上しなければならないし、プライベートな時間の半強制的な業務への振り向けは避けられなければならない。プライベートとオフィシャルの曖昧な関係も合理化されなければならないのである。

2011-09-20 18:51:02
長野テル @naganoteru

多くの日本企業が、効率化を進める中で「遊び」を減らすとともに「曖昧さ」の方も合理化を進めることでバランスを取ってきた中、どの会社よりも徹底した効率化を進めたトヨタは、本来どの会社よりも「合理化」しなければならない領域において、「曖昧さ」を温存し続けていたのではないかと思う。

2011-09-20 18:57:37
長野テル @naganoteru

時間中のWebショッピングで懲戒処分を受け、私用メールが一切ないほどに「遊び」を廃したトヨタが、サービス残業を強い、時間外での積極的な組合・QC・懇親活動を推奨したことが、多くの過労死や自殺などの矛盾となって現れたと考えるべきだと思う。

2011-09-20 19:03:42

【トヨタの特殊性について】

長野テル @naganoteru

この点については、①なぜトヨタは徹底して「効率化」を推進したかと、②なぜトヨタは曖昧さを温存し続けたのかに分けて考える必要がある。

2011-09-20 19:08:16

①なぜ徹底して「効率化」を推進したか

長野テル @naganoteru

まず、①について。日本企業が効率化を進めたのは、さきほども言ったとおり、売上増が見込めない中でコストの削減を進めるため。さらにその背景には、株式会社は株主利益を最大化すべきという考え方の浸透があり、それを補強するかのように株式の持ち合いの解消があった。トヨタもその例外ではない。

2011-09-20 19:10:58
長野テル @naganoteru

けれど、トヨタは、日本企業最大の利益を上げる超優良企業であるだけでなく、元々は無借金経営。ほかの日本企業よりも、効率化に対する株主的な外圧は小さい。なので、トヨタが効率化にまい進したのは、外圧によってはなく、トヨタ自身にある強烈なまでの効率化のDNAによるのではないかと思う。

2011-09-20 19:15:11
長野テル @naganoteru

そのDNAには、愛知という土地が影響を与えていと思う。近江や大阪のように古くから商業が栄えた土地には「商人道」があり、利益の追求の自己目的化を廃し、社会や顧客への貢献という非経済的な目的をも重視するカルチャーがある。国や国民のためという理念で作られた三菱や殖産企業も同様。

2011-09-20 19:21:16
長野テル @naganoteru

ところが、愛知にはその伝統がない。本書の中にも「三河の田舎企業」という表現が出てくるが、江戸と上方に挟まれ、両者へのコンプレックスが成長の動機となっている愛知という土地には、成長そのものを自己目的化する貨幣経済的な意味での純粋さあるのだと思う。

2011-09-20 19:25:39
長野テル @naganoteru

無借金のまま鷹揚な経営を続けられえたはずのトヨタが、自ら拡大路線を進み、1千万台という数字を自己目的化したのには、そういう田舎企業的コンプレックスを感じる。駅前のビルを大名古屋ビルと称したり、超高層ビルを建てて喜んだりする感覚にも通じるし、JR東海がトヨタと似ているのもしかり。

2011-09-20 19:29:27

②なぜ曖昧さを温存しつづけたのか

長野テル @naganoteru

②も、土地の問題がある。トヨタは住民の過半がトヨタ関連という企業城下町「豊田市」に位置するお山の大将のような存在。広告費1000億がものを言い、マスコミも批判をしない。町ではトヨタ様々。それがそのまま日本一の会社になったものだから、その傲慢さは際立っているのだと思う。

2011-09-20 19:35:57
長野テル @naganoteru

普通の大企業では考えられない独裁的な感覚がトヨタにはある。少数組合への賛同者を人事と組合が手を組んであぶり出す、QCに非協力的な社員をあからさまに差別する。過労死裁判で同僚社員に「毎日長時間雑談をしていた」と平気で証言させ、裁判官の失笑を買うほどの一般感覚とのズレがそこにはある。

2011-09-20 19:40:08

【終わりに】

長野テル @naganoteru

以上、「トヨタの闇」読後の頭の整理でした。ちなみに、自己評価がすべて丸の社員を評価しないというトヨタ人事のスタンスには大賛成。人間は、自分に欠けていることを認識するからこそ、自己成長をするわけだから。

2011-09-20 19:43:41
長野テル @naganoteru

もともと自分は、トヨタという会社が好きではないからこの本を手に取ってみたわけだけど、実際には、書かれている内容の大半について、筆者の主張よりもトヨタの方に分があると思ってます。今回の備忘録では、その部分についてあえて触れず、トヨタという会社の特性に着眼して記しただけなので。

2011-09-20 20:02:31
長野テル @naganoteru

あと、今回のトヨタに関する一連の考察を「論理」と「意味」の二項対立で読み直してください。文脈の理解がより容易になると思います。 【参考】論理と意味の二元論 http://t.co/6NmeGMqD

2011-09-20 19:47:57
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