- rouillewrite
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進むにつれて大きくなる、切ない音が廊下に響く。 いつの間にか外は夕焼け色から深い藍色に染まっていて、輝く星が白く遠くで見えていた。 月明かりだけを頼りに屋上から体育館に向かう途中、15人誰ひとり口を開かなかった。
2023-08-27 21:06:01これから訪れる最終決戦に覚悟を堅くしているのだろうか。 それとも、味方だと思っていた人間が、この夢の発端だと知って整理を付けるのに必死なのだろうか。
2023-08-27 21:07:25思い思いの考えや想いを巡らせ、東棟の1階廊下を歩く。 先頭に空彦や火咲、その後ろに疎らに続いて1番後ろは太陽だった。
2023-08-27 21:08:09体育館に向かう渡り廊下を通って、その大きな扉を目の前にする。 鳴り止まないピアノの音が、緩かに吹き行く風と同化して、その音の主の心情を知らせるような気がしていた。
2023-08-27 21:09:42お互いに頷きあって、その扉を─────開く。 流れている曲はどこか懐かしさを感じる…シューマンの「トロイメライ」だ。
2023-08-27 21:10:31扉を開けて、15人の目にすぐ入ったのは、1人の少年が舞台の上でピアノを弾いている姿。 トロイメライはそこから流れているようで、彼の背後にある月明かりがその表情を僅かに照らしていた。
2023-08-27 21:12:02しばらくそれを奏でて、ゆっくりと仕草で曲を終わらせると、体育館内に拍手が響いた。 手前にいる彼らが手を叩いているのではない。 スピーカーから響くその音は、まるで彼を煽るような、皮肉るような。
2023-08-27 21:15:23…拍手の余韻が病んだ頃、彼────西音寺聖遥はようやくほんの少しだけ、顔を上げた。 そうしてやっと、彼が酷く苦しそうな顔をしていることに気づく。 その瞳に、誰かを叱責していた時のような光はなかった。
2023-08-27 21:16:16太陽が寂しそうにそう呟くと、聖遥は静かにそれだけを返す。 指先にある鍵盤をなぞりながら、誰とも目を合わせようとしないまま下を向いて彼は続けた。
2023-08-27 21:18:44「……全部、聞いたんですよね。ここを作ったのが誰とか、あの性格悪い奴から。 言い方はめちゃくちゃ腹立ちますが、言ってることは全部事実です。嫌な言い方しか出来ない、大人みたいな存在」
2023-08-27 21:19:17曖昧に濁して、夢寐の話ばかりを繰り返す聖遥。 自分のしてきたことを口に出そうとして、溜めてきた分を全て吐き出したいのに、上手くいかずに開けたり閉じたりを繰り返している。
2023-08-27 21:21:19その声に、ポン、と指を添えていた鍵盤が静かに音を鳴らす。 聖遥はようやく顔を上げて、その重たい口を開いた。
2023-08-27 21:22:39「分からないから、言い聞かせてたのに。オレの“コレ”は、最善じゃない最悪だ。 最悪だから、だから………少しでも、もう、誰も傷ついて欲しくなくて。」
2023-08-27 21:23:05