丹生谷先生と若島先生

お二人のナボコフ関連のツイート。 「『アーダ』翻訳をめぐって」はこちらから。 http://togetter.com/li/432725
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nibuya @cbfn

もう一度言いますが、誤訳探しなんて趣味はありませんし、「翻訳論」なんて難しい議論など加わる資格も意志もないし、まあ翻訳はそこそこの日本語で意味がすっきり通ればまずは充分という方なんで、こんな重箱指摘は趣味じゃないんですが

2012-11-24 04:14:43
nibuya @cbfn

「巧緻な言葉遊びの仕掛けがナボコフにはある」という前提を読む時の意識に過重に置くとたとえば子供たちがヒューに「グリュッス・ゴット」と独語で挨拶しヒューが「Hello there!」と英語で返す時、無論僕らはこれを「神様に挨拶を!」「ああ、地獄がそこにある!」と解釈たくなる訳です

2012-11-24 20:47:08
nibuya @cbfn

じっさいこう解釈!すると、そのヒューの言葉に、「あなた気が狂ってるって思われるわよ」とアマンダが言う、その隠された真意が分かったような気になるわけです。むろんこれは半ば冗談で、邦訳もまさかこんな無根拠な解釈などしてません

2012-11-24 20:51:04
nibuya @cbfn

ナボコフは3Bの鉛筆でインデックスカードに書いた。中上健次が集計表だったかを原稿用紙にしていたのは有名。北杜夫さんは原稿用紙をわざわざ裏返しにして書いた。稲垣足穂さんは小学校の校庭で拾った鉛筆で新聞の挟み広告をただで貰って来てその裏に書いた・・・というのは伝説に近い

2012-11-24 22:48:32
nibuya @cbfn

『透明な対象』の邦訳の少なくともその単行本に関して最大の問題点は最後の一行の位置。レイアウトの失敗? 或は意図的なものか? あれは原書でも仏訳でも一行開けで、行の頭も7文字ほど開けて「独立した」一行になっているし、なっていなければならない。邦訳単行本のレイアウト位置ではそれが曖昧

2012-11-26 17:13:00
nibuya @cbfn

エドマンド・ウィルソンは『透明な対象』の出版年に亡くなっているからこの小説は読んでいないだろう。そしておそらく、読んでいてもあまり気に入らなかったと想像できる。或は逆に、これをきっかけに、評価していなかった『ベンドシニスター』やら『断頭台・・・』のナボコフに於ける意味を再認したか

2012-11-26 17:27:15
nibuya @cbfn

『透明な対象』の、少なくとも単行本に関して、と書きましたが、これは単行本だけで文庫化されていないわけですね。文庫化する企画があるなら、ここだけは要改善でしょう。

2012-11-26 17:31:25
nibuya @cbfn

『透明な対象』に関してウィトゲンシュタインとの「関係」が云々されますがそれをどの程度「真面目にとるか」は僕には分りません。はっきりとウィトゲンシュタインの名が出るのは一カ所で『論理哲学論考』4.461の「雨」についての有名な箇所、「トートロジー/矛盾」について語った場所・・・

2012-11-26 17:58:14
nibuya @cbfn

・・・が意識された一文が見られます。ところで乱暴に言えば、或る意味では小説とはトートロジーと矛盾に関わる「言説」であるかもしれず・・・つまりは小説とは、ウィトゲンシュタインの言う「無意味」に関わる、ただひたすらそれに関わる「言説」であるということになります。

2012-11-26 18:01:44
nibuya @cbfn

と言うか、そういうものとしての小説しか認めないということ、それがナボコフの「意志」だったと言えるとすれば・・・。

2012-11-26 18:07:39
nibuya @cbfn

例えば『ロリータ』はともかく、『断頭台への招待』の奇妙な少女エミーなど、ナボコフには「少女たち」においてイギリス風の異様さが刻まれているようにも思います。どちらにしろエミーはとても不気味です。ちょっとフェリーニの『世にも怪奇な・・・』の掌編の毬をつく「地獄の少女」を思い出させます

2012-11-29 11:46:48
nibuya @cbfn

『セバスチャンナイト』邦訳五章の始めに「頬髭を生やした御者と大きな銅貨ともども消え失せる」という一文があり意味が分からないので調べると「大きな銅貨」と訳されたものは英国沼沢地に生息する銅色をした蝶のことだそうで、銅貨ではない。この蝶は十九世紀始めに発見されるとほぼ同時に絶滅する

2012-12-02 19:37:23
nibuya @cbfn

ああ、誤訳を探して喜んでいる訳ではありません。僕もたまたま仏語全集の注で知ったので、大きな辞典にも載っていないので、昆虫学に詳しくなければ思いつかないものでしょう。誤訳もなにもないのです。というか翻訳とう労働の難しさの一例に過ぎません

2012-12-02 19:41:40
nibuya @cbfn

この「Large Copper」の和名は知りません。十九世初頭に英国沼沢地帯で発見され沼沢地が干上がって十九世半ばには絶滅種となったそうです。これが分ると「時代も分らぬ髭面の男やら絶滅した銅色の沼沢の蝶ともども、忘却の中に消えて行く」というニュアンスが加わって来ることになります

2012-12-02 19:49:09
nibuya @cbfn

今日は結局、ナボコフの一節で十九世紀半ばに絶滅した沼沢の蝶(或るいは「蛾」か?)がフッと現れて消えたといことを確認するだけの一日でした。雨が降っているのを今知りました。またもや「雨が降る」。「ウィトゲンシュタインの上には雨は降らない・・・」「ブーヴィルには雨が降るだろう」etc

2012-12-02 20:44:03
nibuya @cbfn

『セバスチャンナイト』五章、「会話はクランペットとパイプの間をもそもそと行き交い、新奇なことは話題にしないのがその暗黙の規範だった」、という一行がそっくり訳されていないのは何故だろう? まあ無くても体勢に変化は無いが英国学生の当時の気風のデッサンであるとすればこの欠落はまずいか?

2012-12-03 01:08:57
nibuya @cbfn

ああ、だいぶ前に書いたナボコフの蝶、「large copper」、未だ和名は分りませんが、copperというのは蝶学では「青い蝶」なんだそうで、ようはナボコフが一番愛した蝶の色ですね。蝶に詳しい方からは愚かしい確認でしょうがお許しを。

2012-12-10 10:02:47
nibuya @cbfn

『セバスチャン・ナイト』の邦訳の一節「ゆすり蚊が、やっとそよともしなくなったポプラの葉に射し込む光線の中で・・・」。ところでこの原文がかなり厄介な単語連想の連鎖で書かれていて、訳文にはそれは反映されていない。たぶん邦訳はそのニュアンスの訳出を諦めたのだろう。仕方のないことだ

2012-12-17 14:05:26
nibuya @cbfn

一応言っておくと、邦訳はこの一節のラストには「forgetful of Juda」という謎めいた語句が来るのだが、邦訳はそれを切り捨てている。確かにこの語を訳し入れると意味不明に近くなってしまうだろうか、この切り捨て自体は・・・まあ、不当ではないのだが・・・

2012-12-17 14:11:52
nibuya @cbfn

因に「ポプラ」と訳された原語はAspenで確かにポプラなのだが、この語の語源は「震える」を意味し、また、伝説ではキリストの十字架の材料の木であると同時にユダが「震えながら」首を吊った木であもある。「震える木としてのポプラ」にはこの段階で幾つもの「意味」が混在することになる

2012-12-17 14:15:39
nibuya @cbfn

実際仏語訳ではaspenはtremble=震える木と訳され、これは英語でもポプラ種の別名そのものでもある。因にロシア語には「裏切りの罪の意識で震える」という意味で「ポプラの木のように震える」という言い方があるそうで、それは「ユダのように救いなく震える」ということを含意する。

2012-12-17 14:21:16
nibuya @cbfn

という訳で、この一節の最後の「forgetful of Juda」は「裏切りの予感を感じていないかのように」とか「罪の意識を抱くことなく」とかいう意味が含意され、それが「やっとそよともしなくなったポプラの葉」という訳された全体に被さるのである。

2012-12-17 14:23:46
nibuya @cbfn

まあこれ以上はまたもや誤訳指摘のようになってしまうのでやめます。ただ、だいぶ前に書いたポプラという木の不思議さについて一つの答え(?)が見つかったようで満足しています。救済と救済の不在とに震える木としてのポプラ・・・「何だろう、ポプラの、あの不思議な身振りは」(三島由紀夫)・・・

2012-12-17 14:31:04
nibuya @cbfn

全く知らなかった「クレア・キーガン」というアイルランドの女流作家の翻訳本を衝動的に注文した後に、不意に『セバスチャン・ナイト』のラスト、「取り違えた男」の名字が「キーガン」であり、ナイトを支えた女性の名が「クレア」だったことに気づく。意味のない偶然だが、しばらく、茫然とする

2012-12-21 02:34:35
nibuya @cbfn

実は今ようやく『セバスチャン・ナイト』を読み終わった。実に三週間近くかかってしまった!ともかく、最後のパリ身向かう列車、病院に向かう過程、不意に、『断頭台への招待』と「同じように」何か知れない「同じものの変幻性」に開く速度に圧倒される。渦と反復・・・野菜人間の復讐に似た・・・

2012-12-21 03:10:49