蒼い蟻#2
貫いた影はただのダミーだった。浮遊するマントだけの存在。そこに魔力破の矢が突き刺さり、バチバチと火花を散らしていた。「やられた……」レックウィルは逃げようとしたが、行き止まりだ。やがてマントは膨らみ始め……爆発した。 57
2014-11-05 17:21:18ミレイリルは闇の中を走っていた。足元に何があるかさえ分からない。錆びた釘が飛び出している想像をして、彼女は悪寒に震えた。手で壁を探るようにして進む。壁に手をついてさえいれば、帰り路を見失うことも無い。乾いた砂を踏みしめる足音。時々レールの枕木に足を引っ掛ける。 58
2014-11-07 16:09:20建築物感知の魔法が使えたら、もっと自由に闇の中を走れただろう。だが、そんな技術も知識も彼女には無かった。濁った緑色をした腐敗臭の雲の指輪が彼女の指にある。いざとなったらこの指輪をこすって、呪文を唱える。それだけが彼女の武器だった。臭い匂いを出すだけの武器。 59
2014-11-07 16:14:18黒いパツパツのパンツスーツが破れそうになるほど走った後、彼女は立ち止った。息が上がり、インナーのシャツに汗が蒸れる。大きく息を吐き、ガラスケースを握った左手を確かめる。蒼い蟻のギンダルはどうしているだろうか、走っている間、思いっきりシェイクされたはずだ。 60
2014-11-07 16:20:44「ギンダル、大丈夫? だいぶ逃げたよね」 返事は無い。完全に気絶しているのだろうか。静かな坑道だ。追いかける足音も無い。真っ暗なのでギンダルの様子は分からない。不気味なほどの静寂。彼の、気の抜けたような声は全くしなかった。ミレイリルはかなり心細くなる。61
2014-11-07 16:25:50とりあえずギンダルを落とさないように、ミレイリルは彼の入ったガラスケースをポケットの中に入れた。そして、再び右手を坑道の壁に触れさせ、歩きだした。戦闘に関しては、レックウィルを信じるしかない。勝てば生命探知の魔法で見つけてくれるだろう。足音が静寂を壊していく。 62
2014-11-07 16:29:24「魔力が濃いって聞いたけど、生命の気配は無いね。大抵、ダンジョンの生き物がいるはずなんだけど」 そこまで呟いて、彼女はぞっとした。もし壁に気持ち悪い生物がいて、右手で触れてしまったら……変な生き物を、踏みつけてしまったら。「はやく決着をつけて、レックウィル……」 63
2014-11-07 16:35:39そのとき彼女は何かにぶつかった感覚を覚えた。繊維状のものが大量に目の前にあったのだが、気付かず突っ込んでしまったのだ。「うわっ、なにこれ……べとべとするぅ」 感触は蜘蛛の巣に近い。粘性があり、繊維が絡みつく。もがけばもがくほど、繊維が絡まっていく。 64
2014-11-07 16:46:50「ちょっと、蜘蛛の巣こんなにあるなんて……いくらなんでも、多すぎ、ない……?」 ミレイリルは異常に気付き始めた。余りにも繊維の量が多いのだ。蛾や他の昆虫を捕まえるどころではない。まるで人間を絡み取るほどの巨大な蜘蛛の巣……そこに突っ込んでしまったのだ。 65
2014-11-07 16:52:29「やだ、やだやだ。真っ暗で何も見えないのに……もし、大きな蜘蛛がいたら……食べられちゃうの? いないよね、蜘蛛。蜘蛛、いたらやだなぁ……いるの!?」 なんの気配もなく、不気味な沈黙は続く。ミレイリルは恐怖でパニック状態になってきた。一刻も早く脱出せねば。そう焦り始めた。 66
2014-11-07 17:01:55次の瞬間、辺りに光が満ちた。眩しそうにするミレイリル。彼女の傍に立っていたのは……眩しく輝く、一人の女性だった。肌から発光していてよく分からないが、裸で、長い髪と蒼い目をしていた。彼女は何かを指差している。ミレイリルは視線をそちらに向ける。そこには……。 67
2014-11-07 17:06:46巨大な紫色の蜘蛛が……牛ほどもある蜘蛛が牙を剥いて飛びかかろうとしていた。ミレイリルは金切り声をあげた……ダンジョンの凶暴なモンスターが現れたのだ! 68
2014-11-07 17:11:34