「低能」と「低脳」は明治時代からある

「低能」と「低脳」という言葉について、調べたことをお伝えします。 「低能」と「低脳」の歴史、語誌。 「低能」と「低脳」の違い。
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「低能」と「低脳」要約
・「低能」はもともと明治時代に考案された法医学・精神医学用語。
・医学用語の「低能」は「精神病と健康の中間状態」を意味していた。
・「低能」は明治から昭和初期にかけ教育学界で多用され、知能の低さを意味する言葉として一般語化した。
・「低脳」という表記は明治時代からある。
・学術用語としては誤記だけど、一般語としては「低脳」もアリでは?

詳しく知りたい方はこちら↓をお読みください。

リンク memo2019 「低能」と「低脳」 - memo2019 目次 法医学・精神医学用語として考案された「低能」 教育学用語化した「低能」 「低能」の一般語化 「低脳」について 参考文献 この文章は2015年に大部分を書き(未発表)、2019年に加筆したものです。4年間で情報が更新された箇所もあるとは思いますが、本旨は変わりません。参考文献の書き方の不統一など、お見苦しい点もあります。公開後も加筆修正しています。 ていのう[低能](名・形動ダ)知能がふつうよりおとる<ようす/人>。 派生 低能さ。『三省堂国語辞典』第七版 てい-のう【低能】<<名・形動>>脳の発育が

やぱ2 @lolvv

「低能」という日本語は、明治時代後期に医学者の片山国嘉(片山國嘉)が考案しました。 片山は東京帝国大学医科大学(現在の東大医学部)法医学教室の初代教授です。

2019-02-13 22:30:23
やぱ2 @lolvv

片山国嘉の名前の読みは、「くにか」と書かれることもありますが、片山が書いたローマ字教本では「Kuniyosi」となっているので、「くによし」を主とします。 dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid…

2019-02-11 19:03:14
やぱ2 @lolvv

明治時代に「低能」という言葉が生まれた背景には、刑法の改正が関係しています。 当時の刑法には、責任能力は「ある」か、「ない」か、つまり正常か、知覚精神を喪失して善悪を判断できない状態か、の区別しかありませんでした。

2019-02-11 19:05:09
やぱ2 @lolvv

片山は「ある」か「ない」かの中間の、限定責任能力が日本の刑法に必要だと考え、ドイツの医者コッホによるドイツ語psychopathische Minderwertigkeitを訳して(精神病的)「低能」とし、健康と精神病の中間状態を意味する言葉として用いたのです。

2019-02-13 01:54:19
やぱ2 @lolvv

ですから、考案された当初の「低能」には「善悪を判断する能力が低い」、「責任能力が低い」という意味が込められていました。 精神病的「低能」は、今の刑法39条の心神「耗弱」に当たる言葉だったわけです。

2019-02-13 01:56:42
やぱ2 @lolvv

ただし、片山は「耗弱」は「すり減る」という意味だから先天性の者には使えず、不適当と述べています。

2019-02-13 01:57:06
やぱ2 @lolvv

この「低能」は榊保三郎によって教育学に導入されます。 「低能」という言葉が普及するにあたっては、特に明治末の乙竹岩蔵による『低能児教育法』の影響が大きかったようです。

2019-02-11 19:11:10
やぱ2 @lolvv

誤字 誤:乙竹岩蔵 正:乙竹岩造

2020-05-18 20:36:06
やぱ2 @lolvv

ですが、当時の教育界における「低能」は統一された定義付けがなされた語ではなく、「能力が低い」という共通認識はあったものの、その能力も知的能力であったり、徳性であったりと、使う人によってばらつきのある言葉でした。

2019-02-11 20:40:05
やぱ2 @lolvv

明治末から大正時代、昭和初頭にかけての教育界での「低能」・「低能児」という言葉の流行に並行して、「低能」は一般社会でも使われるようになっていきました。

2019-02-11 19:14:09
やぱ2 @lolvv

1912(大正1)年には、『低能』と書いて「ばか」とルビを振るタイトルの小説(著者は深尾葭汀)が出版されています。 dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid…

2019-02-16 23:07:44
やぱ2 @lolvv

1925(大正14)年の『最新現代用語辞典 大正拾四年版』 dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid… には 「テイノウ(低能)人並みの脳力を持ってゐないもの幼時脳膜炎に罹ったものによくある。普通間抜馬鹿の意に用ひられる。」 と、あります。

2019-02-11 19:15:05
やぱ2 @lolvv

1934年(昭和9)年の『大言海』には 「ていのう(名)低能〔能ハ脳ノ意〕アタマノ、ハタラキノ鈍キコト。又、智ノ足ラヌモノ。痴愚ト正常状態トノ中間ニアルモノ。ウスバカ。ウスノロ。」  と、あります。

2019-02-11 19:15:53
やぱ2 @lolvv

一般語化した当時の「低能」は、すでに今と同じように、特に知能の低さを意味する言葉として、バカや間抜けの同義語として使われるようになっていました。

2019-02-16 00:34:32
やぱ2 @lolvv

「低能」を考案したのは片山でしたが、「低脳」の初出も1902年(明治35年)の片山の講演録にあります。 『監獄協会雑誌』第15巻第1号p.13。 jca-library.jp/kangokukyoukai… 『朝日新聞』1906(明治39)年5月6日朝刊p.6にも「低脳者」が使われています。 これらは法医学・精神医学の言葉なので誤記です。

2019-02-11 19:20:02
やぱ2 @lolvv

教育学用語としても「低脳」は誤記です。 ですが、一般語になった「低能」、知能が低い、脳力が低い、アホ、バカ、間抜けといった意味で使われる「低能」は、「低脳」と書いても誤りとは言えないのではないかというのが僕の意見です。

2019-02-16 00:35:17
やぱ2 @lolvv

一般語化した「低脳」の文学作品における古い用例は、江戸川乱歩『パノラマ島奇譚』(『新青年』1926(大正15)年11月号p.97)や、岸田國士『或る日の動物園』(『手帖』1927(昭和2)年第1巻第2号p.1)があります。

2019-02-16 23:11:02
やぱ2 @lolvv

「低脳」をよく使っている作家は、坂口安吾です。 ただ、安吾の文章には、雑誌の初出時で「低能」になっているものもあります。 「低能」と「低脳」を使い分けていたのか、編集者に直されていたのかは分かりません。

2019-02-11 19:25:17
やぱ2 @lolvv

坂口安吾『東京ジャングル探検』は初出の『文藝春秋』1950年6月特別号では「低脳」(低腦)が使われていますが、安吾の没後、同誌1972年2月特別号の再録では「低能」になっています。

2019-02-16 22:13:44
やぱ2 @lolvv

「低脳」が使われた小説で一番有名なものはこれかなと思います。 太宰治の『晩年』の『道化の華』左ページ真ん中下 dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid…

2019-02-13 02:30:14
やぱ2 @lolvv

「低脳」は『日本国語大辞典』に収録されています。 去年から精選版をコトバンクで読めるようになりました。 kotobank.jp/word/%E4%BD%8E…

2019-02-11 19:30:07
やぱ2 @lolvv

『国語大辞典言泉』(1986年の尚学図書編のほう)と『日本俗語大辞典』にも「ていのう」の漢字表記としての「低脳」が収録されています。

2019-02-13 02:27:36