リン・ハント『人権を創造する』のとある感想

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Rootport🍽 @rootport

進化心理学的に言えば、「言葉の通じる相手」に親しみを覚えて協力したくなる傾向を持っていたほうが、包括適応度を高めやすくなるはずだ……ということになる。

2022-07-20 00:06:29
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日本の場合、明治5年に「学制」が発布されて、初等教育が始まった。日本が「国民国家」になるのとほぼ同時に、私たちの言語も平準化されたわけだ。薩摩弁や津軽弁のような意思疎通の難しい方言を母語としている人々同士ですら、同じ言語で会話できるだろうと期待できるようになった。

2022-07-20 00:10:12
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欧米の場合、国民国家の成立よりも先行して身体刑や拷問が急減している。初等教育の充実や「言語」の統一との前後関係はどうだろう?初等教育の理論的土台を与えたのは「子供の発見」だが、その点で影響力の大きかったルソーの『エミール』は1762年だ。一応、時期は一致している。

2022-07-20 00:14:14
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ダンバーの仮説から推測される「言語仮説」は、ハントやピンカーの「小説仮説」と相互排他ではない。書簡体小説という(当時は)斬新な形式の物語を読んで、当時の人々が他人を自分のように感じ始めたことは間違いないだろう。そして、そもそも言語がある程度は統一されていなければ、小説は売れない。

2022-07-20 00:16:33
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進化心理学ではカバーできない範囲として、ハントの主張のなかでは「社会契約説の果たした役割」がある。身体刑や拷問が減るためには、身体が誰のものなのか再定義されなければならない。身体は国王や社会や共同体のものではなく、個人のものであると見做されなければならない。個人主義が必要なのだ。

2022-07-20 00:19:11
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ハントは啓蒙思想と社会契約説が、個人主義の誕生に影響を与えたと述べている。国家権力が国民と政府との「契約」に基づくものであるならば、国民は契約を結べる主体――自分で善悪の判断ができる自律的な存在――でなければならない。自分が自律的であるように、隣人も自律的だと見做さなければならない。

2022-07-20 00:21:16
Rootport🍽 @rootport

「自分が自律的であるように、隣人も自律的だ」という認識は、「自分が痛みや恐怖を感じるように、隣人も痛みや恐怖を感じるはずだ」という発見に繋がる。ここから、近現代の個人主義――身体はその人自身のものであるという発想――が生まれる。

2022-07-20 00:22:50
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「身体刑や拷問はなぜ急減したのか?」という疑問は、当然、複雑系の問題だ。おそらくクリティカルな原因が一つあるわけではなく、それぞれ影響を与えた要因がいくつもあったはずだ。フーコーの言うように、大衆の支配されたがる傾向や、権力者の「支配する技術」の向上も影響を与えたことだろう。

2022-07-20 00:25:28
Rootport🍽 @rootport

なんなら、様々な要因がお互いに正のフィードバックを与えあった可能性すらある。リン・ハント『人権を創造する』を読んで、あの時代のことをより多面的に理解できたような気がする。楽しい読書体験だった。

2022-07-20 00:27:37
Rootport🍽 @rootport

ちなみに仮説を思い浮かべるだけでは「なぜなぜ物語」になってしまう。「なぜカラスは黒いの?」「神様を怒らせたからだよ」のような童話・神話と大差ない。仮説は、何かの予測を立てて、それを検証することで初めて蓋然性を認められる。

2022-07-20 00:29:35
Rootport🍽 @rootport

歴史上の謎であれば、身体刑や拷問の消えた別の国家や時代を検討するといいかもしれない。中国から身体刑が無くなったのはいつだろう?未だに身体刑の残る中東の国々で、足りないものはなんだろう?言語は統一されているだろうか?小説や映画は?社会契約説は浸透しているか?

2022-07-20 00:32:15
Rootport🍽 @rootport

たとえば「社会契約説により個人主義が広まり、身体の帰属が国家から〝個人〟になった結果、身体刑が減った」という仮説からは、身体刑の残る国では社会契約説が浸透していないという予測を得られる。この予測が当たれば、この仮説の蓋然性は増す。

2022-07-20 00:34:01
Rootport🍽 @rootport

「言語の変わりやすさ」を示す例として、古英語再現アニキも紹介しておきたい。ぜんぜん聞き取れない…ってか別言語に聞こえる。(※なお、本人は趣味でやっているだけだから間違いだらけのはずだ、と謙虚な姿勢) youtu.be/oFX1nbD3dV0

2022-07-20 00:54:41
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