リスク比較によるリスクコミュニケーション - 菊池誠(kikumaco)さん、平川秀幸(hirakawah)さんを中心とする議論
はじめに
本まとめは、先行する簡潔なまとめ「~のリスク比較に関するやりとり」の補足メモです。
このまとめが長すぎて読む気にならない方、それも一つの正解です。
まずは簡潔なまとめを読んで、スッキリと理解できなかった時に、
本まとめを拾い読みし、関連まとめやtwilogで関連議論を確認する等して
お役立て頂ければ幸いです。
簡潔なまとめ
本まとめの目的
先のまとめ登場後、7/12時点で、議論当事者間に若干の齟齬が生じており
-
「正しく怖がる」ための正しい「リスク比較」の知識普及が重要
とする科学リテラシー/科学者 (科学的合理性の立場) -
人間や社会は、科学的合理性だけでなく、科学の外側の「道理性」も必要としており
科学者は他の専門家や人々・社会と協力して問題解決に当るべき
とする科学技術社会論/社会学者 (合理性と道理性の両立)
の議論が決着していないように見えます。
このような場合、当事者間で必要に応じ再議論するだけでなく
より広範な人々が問題意識を共有し、自ら考え議論する事も重要でしょう。
しかし先の簡潔なまとめは、当事者・関係者の共通理解事項、たとえば
- 先行議論の参照
- 今回議論の位置付け
- 専門用語や専門的概念の解説
といったものが省略されているので、単体で読んでも理解が難しいように感じます。
(私たちの日常会話やTwitter上のつぶやき、Togetterまとめの多くがそうであるのと同様に)
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このまとめでは、今回議論の背景にある問題意識の共有を目的に
- 関連する先行議論やまとめ
* リスク・コミュニケーション あるいは 社会における科学の立ち位置
* 諸々の背景にある二項対立(安全厨vs危険厨 / 御用・トンデモというレッテル貼り)と、
その根底にある
* ICRP2007準拠国内法制度の未整備問題
* 広島・長崎や水俣病問題から続く諸問題 - 同時進行したやりとり
- その他補足情報や遊び心、空気感みたいなもの
を収集し、extremeなremix風メモとしてまとめました。
(twやtogでできること/できないことを見極めようという試みでもある)
でわでわ^^)
目次
前段
- 2011-03~06 前段1 - 正常化バイアス vs 危険バイアス の二項対立
二項対立の背景
放射線量 と リスク評価
3/21放射性物質大量降下のプロセス推定問題
6/13 東大総長への要請文
「東京大学環境放射線情報」Webページに関する要請 - 2011-04~06 前段2 - 科学 と 社会 を巡る先行議論
6/7 「欠如モデル」
4/9 「正しく怖がる」
5/5 「リスク評価/管理 の 社会的/経済的側面 」
5/20 「科学だけでは答を出せない問題」
6/26 「震災後の正義の話をしよう」 - 2011-07-09 前段3 - 「7/8東京大学緊急討論会」について
- 2011-07 前段4
* 中川さん
* 山下さん
* 福島でなぜ内部被曝スクリーニング(WBC検査)が進まなかったか? - 2011-07-10 前段5 - 「7/9高木仁三郎市民科学基金の成果発表会」について
議論1
- 2011-07-10 未明 - 議論スタート
- 2011-07-10 朝 - 平川さんまとめ
- 2011-07-10 朝 - 議論への反応、その他
- 2011-07-10 そのころ 緑のゴジラさんは…
議論2
- 2011-07-11 未明 - 議論は終わっていなかった…
- 2011-07-11 明けて朝
- 2011-07-11 昼 - 平川さん連ツイ「リスクコミュニケーション」
- 2011-07-11 夜の部
つづく…
前段1 - 正常化バイアス vs 危険バイアス の 二項対立議論
二項対立議論の背景
福島第一原発事故で、事故認識や緊急対応、情報公開、低線量被曝リスク評価を巡り様々な議論が発生し、問題原因追究の真摯な努力の傍らで、対立意見を類型化し二項対立の構図(御用vsアンチ御用、正常化バイアスvs危険バイアス)にあてはめようとする動きが多少見られた。
なお視野を広げれば、さらに大きな対立が複数あり、たとえば:
- 原発推進派と脱原発派の対立
- 今後のエネルギー政策を巡る対立
- 事故対応や賠償の責任分担を巡る対立
等は、国内外の原発産業/経済界/政府・行政/国民を巻き込んで大きな議論なっている。 しかし
(1) 本まとめのテーマ「リスク比較によるリスクコミュニケーション」では必ずしも扱い切れない
大問題であること
(2) twitter上には、原発産業・原子力工学や政府・行政側が直接tweetする例はあまり見当たらず、
伝聞や推測に基づく第三者のtweetがメインであること
等の理由から、ここではあまり触れない予定。
放射線量 と リスク評価
ICRP2007勧告への国内法制度対応は2011/1第2回中間報告で停まっているため、3/21のICRP準拠宣言(ICRP2007準拠)と、現行法(ICRP1990準拠)の齟齬で混乱が生じている。
リスク評価をめぐり、政府・行政や一部科学者発言に対する不信の念を表明する人が相次ぎ、twitter科学クラスター周辺でも様々な意見対立が生じた。
放射能汚染のルートとタイミング
3/21放射性物質大量降下のプロセス推定問題
3/21降雨に伴う関東地方への放射性物質大量降下について、放出過程や降下経緯を巡り3つの仮説がある:
- 放射性プルーム説: 3/15大量放出(及び後の放出可能性)で、上空に放射性プルームが停留・移動し
3/21関東上空から降雨で降下したとする仮説
- 事故初期、状況説明を目的としたシナリオの一つとして検討された
- しかし、3/15放出分は北西に移動し川俣町・飯舘村等に沈着した
とする解釈が有力
- 各地の線量分布データから、3/21大放出の可能性(次項)も推定されるが
敷地内MPデータで確認できないから不明とする立場
- 3月以降の小ピークを、ジェット気流の地球周回周期16日で説明する試み
もあった - 3/21大量放出説: 3/21前後に大量放出があったとする仮説
- 各地の線量分布データから大量放出の可能性が示唆された
- その後、3/20夜~3/21未明の3号機圧力上昇との関連が指摘された
- しかし一部ではデータ隠蔽説や再臨界疑惑へと飛躍した模様 - 微量放出継続説: 4/12安全委発表の放出量推定(SPEEDI逆推算)に基づき、
3/15以降も微量放出が継続し、その積算は無視できないとする説
- 仮に3/21大量放出があっても
* 時間解像度の荒さ (測定間隔1回/1日)や
* 風向西風で海側に流れた割合が大きい為
東電MPデータ上は未検出となり得る
- SPEEDI逆推算精度への懸念:本来の設計を外れた少数のダストサンプリング
による逆推定の精度的疑問(時間間隔、量;公開データに誤差表記なし)
その後、ホットスポット問題等いくつかの文脈に関わる科学者から、「放射性プルーム説」の背景に「正常性バイアス」が働いているのではないか、とする(科学倫理/社会心理学的な)指摘が提出された。この問題を巡る対立は、現在下記のような理由で収束しつつあるように見える:
- 複数の仮説の登場背景には、検証に必要となる充分な精度の実測データの不足問題がある。
「危険バイアス」の観点で、政府・東電による重大事故隠蔽や重要データ隠蔽を仮定して、
別の仮説の却下を試みるのは、問題のすり替え(不確定性)に過ぎない。 - 実測された線量分布や、4/12安全委推定を基準とするかぎり、どの仮説を採用しようと放出-降下プロセスが置き換わるだけで、現在目の前にある問題に大きな差が生じるとは考えにくい。
* ただし3/21沈着で生じた関東北部のホットスポット等、迅速な調査と対応が必要な問題もある。
* また、4/12安全委推定はごく少数の独自計測(1日1回のダストサンプリング)に依拠しており
他の線量分布データとの整合確認が重要 - 従って、今後新たなデータや分析が登場しない限り仮説検証に進展は期待できない。
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各仮説の詳細
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